「あ。今あたし休憩中」
「ンだよ。仕事モード損した」
けっと舌先を出してだれると、佐藤は不服そうに眉を曲げた。顔の横まで挙げていた手を、くしゃっと丸めて、
「知んないよそんなのー」
「知らせるよう工夫しろよー」
「うー。じゃあ、あんたみたく掛け声から使い分けてみる。よっす。アサキング」
「はぁい。お疲れちゃん。んで、なに? What's cooking?」
.
佐藤の不承不承な様子はまだ尾を引きそうだったが、麻祈は取り合わずに相手へと問いかけた。彼女は挨拶のために再三示していた掌を下ろすと、もう片手にぶら下げていた紙袋を差し出してくる。
「ほいよ。シノが、あんたにお礼だって」
「しの?」
そうやって佐藤に鸚鵡返ししたのは、正真正銘、その名に心当たりがなかったからだが。
念ごろに頭の中で義理堅そうな患者をピックアップしてみるものの、シノ―――志野? 篠? 市野?―――へのヒットはない。そもそも患者からの贈答品は拒否する建前であるし、万が一に麻祈へのそれであるとしても、佐藤を迂回する必要性が不明だ。
どうやらそんな内心は筒抜けだったようで、佐藤が手をそのままに、繰り返してきた。
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