「あさきの かんさつにっき」だん・おうしろう
この前から、あさきが、うちに帰ってきています。あさきは、ぼくのおとうとです。
きょう学校から帰ったら、あさきが遊ぼー遊ぼーと付きまとって離れません。あさきの学校は外国にあって休みだけれど、ぼくは明日も学校があって宿題もあるので、ちょっと無理だなと思いました。
なので、ぼくはサッカーボールがあったことを思いついて「リフティングが20回できたら遊んであげる」って言いました。あさきはきっとできないだろうな、20回やりとおすくらい遊んでほしいんなら遊んであげてもいいかって思ったからです。
けど、あさきは、目をぎょっとさせて、「しない! だめ! したらだめ!」ってバタバタごねるのです。
「ただのリフティングだよ?」って言って聞かせても、頭をぶんぶか横に振って、泣きそうになるだけです。
わけがわからなくて、おろおろしていたぼくは、はゆぅがにょっきり廊下の影から顔を出したことに気付きませんでした。はゆぅは、ぼくのいもうとです。
はゆぅはおもむろにサッカーボールを投げつけて あさきを狙撃すると、「20点とる遊びを、あさきでやってみよっと」ってつぶやきました。
すいません今の一撃は何点ですかと、なぜかぼくは敬語で考えてしまいながら、サッカーボールを頭上にかかげた はゆぅが四つんばいで逃げ回る あさきを追いかけてどつき倒すのを見送るしかありませんでした。どうせ、じいちゃんが帰ってきたら、いつものうちに戻るんだし。
宿題をしてから、はゆぅと あさきを探したら、あさきだけ見つかりました。さるすべりの間で、死んだ魚のようにぐったり倒れながら、どことなくぼろぼろなかんじで「ねぎが。ながねぎが」と不気味なうわごとを言っていました。
さすがにかわいそうだったので、あさきを起こしてから、ふたりでドミノ倒しして遊びました。
ええと。がきんちょ桜獅郎は気付いてないが、本当にそういうことなんだ。
リフティング。英語で言うと、「 Lifting 」。そうです。品物を、そっとつまんで、ポケットまで運ぶ行為……万引き、のスラングなんだよ。これ。
実兄から真顔で「20回万引きしてみせろ」「たかが万引きだぜ?」って言われたら、ちびの俺じゃなくたって、ドン引きするっぎゃねーだろよ。
サッカーボールを地面に落とさないように足で中空へとキックし続ける遊びは、英語じゃ「 Keepie-uppie ( Keepy-uppy ) 」って言う。きーぴーあっぴー。Lifting と真逆のかわいらすぃー響きだと思わないか?
ねぎとか ながねぎとかは
知りません。知りませんとも。俺。 つーこっちゃで、まあ今回はこれにて。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【はみだしDNDDコラム】
ちなみに、サッカーならヘディングも和製英語ですし、徒競争だとクラウチング・スタートなんかも和製英語ですね(ヘディング→ header 、クラウチング・スタート→ crouch start )。
英語は、日本語になると途端に文字数が増えますよねー。英語原著と日本語訳書の厚さを見比べると一目瞭然ですけれど、この膨らんだ部分こそ日本語のなまめかしさとまろみなのかなぁと思ったり。
川端康成の「伊豆の踊子」も、英語にかかれば
イズ・ダンサーだもんな。台無しだよ、もう。
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