. それから二言三言と会話を交わして、佐藤と別れた。去り際、その茶会を切っ掛けにはまった喫茶店で購入した、うぐいす餡ラテと塩抹茶海老カツベーグルサンドを食べなきゃとか言っていた。なんの罰ゲームかと思ったが、見送った佐藤の足つきを観察するに、気が重い行為ではないらしい。
こちらは、そうもいかないが―――麻祈は改めて、ひととおり紙袋の中を探ってみた。しかし、メッセージカードのようなものはサルベージされなかったし、包装紙もまっさらで、手書きの文字などひとつも記されていない。
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重いままに終わった右手の指先を、せめて魔法の杖のように目の前で振ってみても、詳(つまび)らかな告白が綴られた手紙を空中から紡ぎ出すような奇跡など起こりやしなかった。となると、地道に奇跡へ歩み寄るしかあるまい……魔法は使えずとも、携帯電話を操作することは可能な指先で。それが自分にある以上は。
「夜にでも、お礼の電話だな」
ひとりごちながら、麻祈は紙袋をデスクの端っこに置いた。確かにこれを受理したという連絡を自分が坂田へ返すのは、口実としても礼儀としても理にかなっているのだし。これだって、紹介医も無い相手へ時間外診察を施す総額を概算したなら釣り合わない値の米焼酎だけれども、ぞっこんラブのハニー(院内限定)のご親友とあらば、しぶる云われは毛ほどもない。
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