「元気? ハッスル?」
「じゃねえの? 風邪でもひいた?」
当然もちろんと返ってくると思っての問いかけに想定外の反応をされて、麻祈は椅子の背から身体を起こした。
こちらと違って半袖の白衣を着た佐藤は、手先の動きが分かりやすい。虚空でキーボードを操作するような手つきをした。胸奥にて、坂田紫乃の電子カルテを開いているらしい。そこにどのような記載があったものか、彼女はいまいち煮え切らないような悩み顔で、
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「どっちかってーと心の風邪かなぁ」
「鬱? どのスケール使って何点くらい? スコア」
「無茶言わないでよ。世間話の中にジャンル外の問診をピンからキリまで織り込むなんて、リハーサルも下準備もないのに出来るはずないじゃんか。まあ、門外漢とはいえ、通院を要するほどじゃないと診た。単に、疲れたのを紛らわすカラ元気かもしんないし」
いたく気楽な佐藤だが、麻祈の疑念は深まっていった。疲れたのを紛らわすカラ元気? この焼酎は、専門店かインターネットショップにしか置いていない。包装方法から、前者で購入したものと見て間違いないだろう。となると坂田は返礼のために、麻祈の嗜好に合致する酒を思い出し、それを置いている店を探し出し、そこまで足を運んだ挙句にこれを入手し、佐藤と逢う機会を設けて、更なる上はその工程をここ数日のうちに完璧にやってのけたということだ―――疲弊した状態で、それを完遂できたとするならば。それはカラ元気などではなく……
(防衛機制なんじゃないか?)
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