「まあ、そうなるかな。お前に繋げる時もあるかもって合コン最後にテル番を渡しといたのが、違う意味で役に立って良かったよ。ってか、お前こそ、どうして坂田さんからの電話通じなかったんだ?」
「図書館で電源切ってたから」
「つけとけよ。映画の上映中じゃあるまいに」
.
「うっさいなあ。あたしにとっては上映中みたいなもんなの。ジャイアー読んでる時は。オンコール日でもなかったし」
驚いて―――
麻祈は、身の内でスタンバイさせていた悪ふざけや悪だくみを取りこぼした。多少ならず、佐藤をまじまじと見詰める。その不躾な注視が、彼女の不機嫌の差し水になるか火に注ぐ油となるかは察しがつかないところだとしても、……双眸においては、そうするしかない。口では、謝罪するしかない。
「―――ああ。ごめん。悪かった(Ah, Whoops…… My bad.)。口出しして」
「いいからほらこれ」
突きつけられた紙袋の振り子による痛打から鼻頭を守るため、咄嗟に麻祈は諸手を顔の前にかざした。結局その手に、紙袋を押し付けられる。その紙の盾越しにこそこそと彼女を窺うと、佐藤はむっつりと唇を閉ざしていた。口紅もひいていない薄皮が、ぴんと一文字に張っている。薄い目蓋だけに、ひくつきが分かりやすい。
(こいつもイラッとすることあるんだな。虫呼ばわりされても、しれっとしてたくせに)
[0回]
PR