. 見つけ出した焼酎のコーナーで、自分の身長の倍はあろう商品棚を見上げる。
(地震になろうものなら、圧死か溺死か、急性アル中で死んじゃうね)
他人事のように思いながら、視線を横滑りさせていく。どうやら下にある一升瓶や紙パックはリーズナブルな品で、上段へ移るほど限定品となっているようだ。価格もそうだが、瓶の凝り具合からして、一見して違う。フラスコじみた形状をしていたものから、どしんとした瀬戸物造りをしたものまで。色合いも様々だ。紫色、乳白色―――
そして紫乃は、それに見とれた。
(きれい……)
青天の色の硝子瓶だった。
.
変形した瓶が並み居る中で、細身のそれだけが、すらっと真っすぐ立っている。色合いもそうだが、その立ち姿に目を奪われた。個性的でもない、異色でもない、ただ美しいだけの姿だった。手を伸ばすしかない。
紫乃の肘から手先まであるかないか程の丈をした大きさだ。ラベルを確認すると、米焼酎と書いてある。これに決めた。
レジで支払う時になって、値段を見忘れていたことに気付いた。気付いたが、アンタッチャブルなくらいに高価でもなかったので、そのまま支払いを済ませた。贈答用のラッピングをしてもらう。熨斗紙やら包装のパターンやらについて店員が質問してきたのだが、うまく答えることができず愛想笑いだけしていたら、いつしか相手も愛想笑いだけになってくれた。気を使ってもらって、済まなく思った。
紙袋と鞄を助手席に家に戻ると、父と姉も帰宅していた。食事や入浴前後の間に、誰彼となく浴びせかけられる質問にやはり愛想笑いだけしていたら、同様に家族も愛想笑いだけになっていた。気を使ってもらって、やっぱり済まないとは思ったが、家族だからそれだけだった―――いや、これも家族だからか、漱(すすぎ)だけは我慢しきれなかったらしくツッコんできたのだが、
「あんた。変なんだけど?」
「……そうなんだ」
姉妹あけすけに、それで終わった。
終わってしまったので、お笑いテレビから噴き出す歓声を携帯電話をつつき回しながら聞き流し終える頃、ふたりは居間から自然解散した。
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