「坂田紫乃」
「ああ。坂田さん」
やっとこさ合点がいって、麻祈はぱちんと指を鳴らした。音は軽快にはじけたが、長袖の白衣の袖口の中に吸い込まれて響かない。手首の腕時計の自動巻き機構が、動いたはずみで巻き上げられた感触がした。
お礼と言うのは、数日前の電話対応の件だろう―――ということは、やはりあのあと、うまいこと事態は片付いたのだ。それがなによりも喜ばしい。
(あれ? だったら、うまくいきましたって報告くらいあってもいいような気がするけど)
確かに、なにかあればと言付けた手前、何事もなく済んだことを電話するのは、それに反してはいる。が、引っかかる。
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