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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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. おおよそ百人キャパシティの医局は、いつになく閑散としていた。昼食を摂りにラウンジや食堂へ向かった者のみならず、未だに外来診療や手術にかかずらっている者が相当数いるらしい。通路に立つ佐藤の向こう側のデスクについている医師の七三分けが跳ねたのは、うたた寝して頬杖から滑落したせいだ……今度こそ、机に額から突っ伏して熟睡を迎える体勢を完備したのだから、まず間違いない。

 誰の耳も見えないが、衝立の壁の向こうには無数の聞き耳があったところでおかしくない。麻祈は、上向きにした人差し指を自分に向けてちょいちょい振る仕草で佐藤を手招きすると、素直に寄ってきた小造りの耳朶へ念を押した―――佐藤葦呼と段麻祈は恋人同士であるという建前工作を院内にて展開中であることを、自分自身にこそ厳命するために。

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「坂田紫乃」

「ああ。坂田さん」

 やっとこさ合点がいって、麻祈はぱちんと指を鳴らした。音は軽快にはじけたが、長袖の白衣の袖口の中に吸い込まれて響かない。手首の腕時計の自動巻き機構が、動いたはずみで巻き上げられた感触がした。

 お礼と言うのは、数日前の電話対応の件だろう―――ということは、やはりあのあと、うまいこと事態は片付いたのだ。それがなによりも喜ばしい。

(あれ? だったら、うまくいきましたって報告くらいあってもいいような気がするけど)

 確かに、なにかあればと言付けた手前、何事もなく済んだことを電話するのは、それに反してはいる。が、引っかかる。

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「あ。今あたし休憩中」

「ンだよ。仕事モード損した」

 けっと舌先を出してだれると、佐藤は不服そうに眉を曲げた。顔の横まで挙げていた手を、くしゃっと丸めて、

「知んないよそんなのー」

「知らせるよう工夫しろよー」

「うー。じゃあ、あんたみたく掛け声から使い分けてみる。よっす。アサキング」

「はぁい。お疲れちゃん。んで、なに? What's cooking?」

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. どこの職場でも同じだろうが、医者だって病院だって、暇な時は暇である。

 麻祈は、病院医局―――控え室という意味だ、念のため―――に分譲されている自分のデスクで欠伸をかみ殺した。病棟入りしていない常日頃は、こうして己のブース近辺か、それ以外の二箇所を徘徊しているのが彼の習慣である。どでかい大部屋を用途別に小分けした我らが医局は地上三階南向き、時刻は午後直前に差し迫り、うららかな陽光がいけない誘惑を躊躇わなくなってきたのを感じる。時間帯から言えば、その誘惑は食欲で然るべきなのだろうが、麻祈はそれよりも母親によって満遍なく叩かれた羽枕を欲していた……大昔、長期闘病の末に死別した母親にそんなことをされた経験などあるはずがなかろうとも、憧憬とはそんなもんである。つまり、自分勝手だ。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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