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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「坂田君。ちょっといいかい? 話をしよう」

「は、はい!」

 紫乃は、社長室へと手招きされた。

 室内は、紫乃が採用面接された時から、模様替えさえされていない。ブラインドが下げられた窓がひとつ。テーブルを挟んで対になっている二人掛けソファーがあり、その向こうには社長机と椅子だ―――どれもさほど高価なものではなく、元は小学校にでも置いてあったのを下取りしてきたのか、取っ組み合いの喧嘩に巻き込まれてきた暦年を物語るようなキズや窪みが修理しきれていない。金をかけてまで修理しようとまでは思えない。そういった備品だ。

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「坂田さん。怒って、ないんですか?」

「怒る?」

「あんなに、わたし、ひどいこと言って……」

 言いよどむ彼女に、紫乃こそ言いよどむ―――それでも、耳に残っているのは、上野の阿鼻叫喚よりも、昨晩の電話ごしの会話だった。

 だったなら、ばつがわるい表情で、ほほ笑むしかない。

「このまま病気を放っておくなら、怒るかもしれません」

「その場合は、叱るじゃないかなぁ。いや叱るけど。わたしから」

 と。

 急に割り込んできた社長が、紫乃の横へと並んだ。そこで、あとのせりふを続ける。

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「わたし、お医者さんの知り合いがいて。あなたのことを、相談したんです。―――その人は、あなたは病気だろう、病気に合った治療を受ければ治まるはずだって言いました」

「そんなの嘘!」

 上野が、金切り声を上げるついでに顔を上げたのは、思わずの行動だったことは目を見れば分かった。あの日と正反対の、紫乃にひたすらに委縮した眼光は、ゆらめく涙の深海で震撼していた。

「だって。今までだって通院しました。薬も貰ったし、先生に言われたように生活を工夫しました。でも良くならないんです。ちっとも。……」

「その人は、婦人科にかかるべきだと言っていましたよ」

「ふ、じ?」

「行ったことはありますか?」

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「お。グッドタイミング」

 のほほんと上野の裏から言ってくる社長だが、紫乃は鼻白んで歩を止めていた。わけが分からない。わけが分からない、そのうちに。

「この間は、本当に、すいませんでした」

 上野が紫乃へ、深々と頭を下げた。そして、涙に翳(かげ)る謝罪を、しおらしく紡いでいく。

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. 紫乃の就業は朝の九時からだが、いつもその三十分前には社中にいて、開業のための雑用を済ませてしまうのが日課だ。パソコンを起動させたり、来客用の自動ドアの電源を入れたり、その玄関に派遣社員登録者募集の旗を出すついでに軽く掃除を済ませたりしているうちに、ひとりふたりと出社して役目を分担してくれるので、そのタイミングの前後次第では給湯室の湯沸かし器に水を入れるだけでいい日もある。そんな日は、自分のデスクで人心地つきながら、上役から朝礼が打診されてくるのを待つのだが―――

 麻祈と電話した翌朝、紫乃は普段より更に三十分早く支度した。制服に着替えて化粧をし、新聞を読みながらコーヒーを啜る。入社当初を超えるその開始記録よりも、紫乃が久々に朝食をしっかり食べ終えたことに、母は目を点にしていた。そこからの視線に追尾されている気配は、

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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