「わたし、お医者さんの知り合いがいて。あなたのことを、相談したんです。―――その人は、あなたは病気だろう、病気に合った治療を受ければ治まるはずだって言いました」
「そんなの嘘!」
上野が、金切り声を上げるついでに顔を上げたのは、思わずの行動だったことは目を見れば分かった。あの日と正反対の、紫乃にひたすらに委縮した眼光は、ゆらめく涙の深海で震撼していた。
「だって。今までだって通院しました。薬も貰ったし、先生に言われたように生活を工夫しました。でも良くならないんです。ちっとも。……」
「その人は、婦人科にかかるべきだと言っていましたよ」
「ふ、じ?」
「行ったことはありますか?」
.
藪から棒の話に、上野がうろたえながら口を開く。
「いいえ。そんな。だって、前の会社の健診でも貧血だって言われたから、内科に……」
「自分の症状を調べたことはありますか? インターネットでも、何ででも」
「……いえ、パソコン、持ってないし……ケータイをインターネットに繋ぐと、電話代がかさむから……」
「上野さんは、PMDDっていう病気かもしれない。その人は、そう言いました。女性に特有の病気だって。だから、婦人科にかかってくれると、わたしも安心です」
上野を見つめながら、紫乃は頷いた。それでいい。今の自分は。
上野が、ぽかんと声を上げた。
[0回]
PR