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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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. 柄から紙雑巾を外して捨て、手をはたいてからメールを確認する。目を離した隙に八通到着していた。いちいち返信するのも無駄に思えたので溜めてから返そうと思っていたのだが、八通読んでもなにを返せばいいのか理解に苦しむ密度の内容が続いている。ありとあらゆるデコレートをされた“焦げ目カワユし”のひと言に、プリンと半溶けアイスの乗ったトーストの写真を添付されていたところで、朝っぱらから辛党を悪夢へ送り返す食卓ですねとしか言えない。としても、このメールにその返信は相応しく無いことも分かりきっている。

 結局、自分も朝食はパン食で済ませたとだけ返した。洗濯機の洗濯完了のアラームが聞こえる。

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. 物臭(ものぐさ)を自認する自分がどうしてこんなことを続けているかというと、これとてやむにやまれずに他ならない―――合コンと違って実りがある分、気分が乗れば本腰を入れることとて可能だという意味では開きがあるとしても―――要は、販売されている惣菜も利用しはするのだが、とかく嫌な意味で日本的すぎて飽きがくるのが早いのである。小枝になるまで揚げられた唐揚げは食中毒を危惧してのもので、しばらく旨味の味蕾が麻痺するほど濃厚な味付けは薄味へのクレーム対策かなにかなのだろうが、石橋を叩きすぎて壊した瓦礫を咀嚼し続けるのは黙然とした拷問だ。かといってレトルトパウチを開けると、今度はピンからキリまで同じ味である。連綿とした処刑だ。となると自然に、自分で自分好みのものを作っておいて、既製品にノックアウトされたらそちらで味覚を慰める生活サイクルにならざるを得なかった。特に自分のべろが美感に鋭いとか偏執狂的だとは思ってはいないが、前に佐藤にハンドメイド雑炊を食わせてやったら感涙せんばかりの様子だったし、思い返してみると、コーヒーだってインスタントのものはありはすれど豆のドリップ袋だって切らしたことが無く、後者を淹れる時は水道水を使わない。やはり美味家(エピキュリアン(An epicurean))―――講釈贔屓の食通(ガストロノミアン(A gastronomiean))でなく―――なのかもしれない。だとしたら、歩いていける場所に乃介蔵(ののくら)が存在したのは、これ以上ない幸運だ。

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. 手と顔を洗って、普段着に着替える。部屋着と使用済みタオルを持って洗濯機の蓋を開けると、かなりの洗濯物がたまっていた。洗濯できなかった日数を指折りしてみて、今更その量を実感する。

(今日は自炊日だし。さっさとやっちまお)

 液体洗剤をドラムの中にあけて、スイッチを入れた。標準設定から念入り設定へと変更し、スタートボタンを押す。あとは全自動だ。

 麻祈は、部屋に戻った。冷蔵庫から食パンの最後の一枚を取り出すついでに、その他の内容物をざっと視線で掃く。

 合コン前に買出しは済ませている。なにを作る予定だったのかは、冷蔵庫に貼ったメモで復習した。では、どういった順序で段階を踏んでいくのが最も効率的か、過去の立案が誤答でないか、もう一度おさらいしてみる。食パンを食べ切る前に済んだ。慣れたことだ。

 触れた口周りに無精髭と異なる違和感を感じて指先を見れば、パン屑がついていた。ちゅっとそこへ唇を落としてから、冷凍食品のエビフライ―――そう、パン粉で思い出した―――の期限が迫っていたことを思い出す。頭の中のメニューのひとつである親子丼をエビフライ丼へと変更し、あまった鶏ササミはホールトマト煮込みへ転身させた……野菜はともかくベーコンもオリーブオイルも切らしているが、つまみ用のチーズを二回に分けて違う種類投入すれば、それらを使うのとはまた一風変わったコクが出てくれるだろう。一品増えたところで、タッパの数も足りるはずだ。冷凍庫の容積としてはぎりぎりかもしれないが。

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. 今度は現実でもこくこく首肯してから、麻祈は再度ふたつ折りにしていた画面を開いた。メールを見る。それはもう極彩色のオとハとヨと、おはよと動くアニメーションが出た。だからなんで分割して来る?

 ぶり返したミステリーに常勝無敗の探偵でも召喚したくなるが、そうなった場合、最初の犠牲者は確実に自分自身だろうと麻祈には思えた。依頼者が死ぬのはありふれた展開なので疑問はない。江戸から東京まで時代と名称は移り変わるとて、セントラル・シティを歩む通行人Aの死角は概ねデンジャラスだ。階段から落ちる。線路に突き落とされる。辻斬り。とにかく生身で焼死だけ勘弁してくれさえすればいい。まあ、依頼者全員そんな末路をサイクルしていたらその探偵こそ死神として警察からのマークを食らうだろうが、そうなったらそいつは殺人代行業者に栄転すればいいだけの話だ。凶器は自分の存在そのものだから、手にするのはブラック・ジャックだろうが綿棒だろうが構わないのだし――― 一般人の父でさえ空港の金属検査にて鼻毛切り鋏で捕まるこのご時勢で、殺し屋の凶器が綿棒で済むというのも天賦の才じゃないか……

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. 夢は見たかもしれないが覚えていない。今迄それを不愉快に思ったことはない。

 だが、これからは不愉快に思うだろう。少なくとも、あと半日ほどは、絶対に。

(昼寝だけはしない。これから半日だけは絶対にしない)

 午前八時に携帯電話のメール着信音四連発に叩き起こされて、麻祈はベッドの上で座り込んでいた。顔を押さえた指の柵の向こう、ちらとカーテンに目配せすると、もったりした青灰色のそれの隙間から朝日がこぼれているのが見える……あれは本来、正午前の陽光のはずだった。のだが、こうして朝日が見えている。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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