「申し訳ありませんが、こちらはお預かりになった坂田さんから段さんへ、ご返却をお願いします」
「はあ」
「―――具申ですが。ものが金銭ですので、一刻でも早いほうがよろしいかと」
「でも、麻祈さん、ちょっと待っていて欲しいって言ってたし。写真でも見ながら―――」
うろたえた双眸をおっかなびっくり向けるのだけれど、篠葉はあくまで手を引っ込めてくれない。しかも、念押ししてくる。
「写真は、壁が埋まるごとに、整頓しています。より古いものは、そちらのアルバムに、すべて収録済みです」
と、レジの横に備え付けられた小さな棚に視線を落として、そこに置いてある冊子を示した。
そこから、彼の眼差しが紫乃へと戻ってくる。
その双眸はまたひとつ別の隠し事を孕んで、こちらの深読みを誘うような清んだ眼光を燈していた。
「あなたの麻祈さんは、今を逃して、よろしいとは思えない」
意味は分からない。分からないまま、背を押されている。それが分かる。
ただし同じくらい、紫乃には分かってしまったことがある。
紫乃は、片手に革財布を、もう片手に数枚の小銭とレシートを―――最後にはその両手まるごと胸倉に掻き抱いて、レジから駆け出した。
迷うことなく店の玄関まで走り、ドアを開ける。引き戸を引いたはずみで、肩に掛けているカゴバッグが落ちかけた。落ちかけただけだから、どうでもいい。
ドアから出る。小さな踊り場に立つと、なまあたたかい夜気に満たされた地味な夜景が見通せた。足元、三段階段が歩道へと降りているが、その先には誰もいない。壁に沿うように作られたスロープ、そちらの先は乃介蔵の駐車場に通じている。今はそこに、車が二台―――
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