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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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.いつしか夕日は、夜の到来を予感させるような翳りを含んでいた。住宅街に入っていくと、それはさらに夕餉の芳香を含んで、もったりと重たくなった。そのうち、どこからともなく流れてくる夕方のニュースの音をかぎ裂きにするかのような けたたましい盛り上がりをみせた女子中学生五人組と、路側帯で行き交った……半袖に衣替えになった不満が日焼けの話題になり、日焼け止めローションのコマーシャルに出ている俳優のゴシップに展開したところで、ついに彼女らの話を聞き取れなくなる。距離が離れたこともあるが、五人組の中で二対三に話題が分裂したのが大きい。お互いの話が混ざってしまって、聞き分けられない……きっとそのうち、またひとつになっては、はじけるのだ。絶え間無い波のようなそれを、紫乃はよく知っている。

(懐かしいな。あんな頃)

 ちょっと笑ってしまっていた。それが聞こえたようだ。歩くまま、麻祈が視線を振り返らせてくる。

 高揚した気分のまま、紫乃は弁解した。

「いえ、その。中学生だなぁって思って」

「ふぅん」

 そのまま、会話が途切れた。

 高揚した気分がしぼむ。しぼむまま、カゴバッグを抱え込んで、背中まで丸まってしまう。

「……ごめんなさい。つまんないこと言っちゃって」

「はい?」

 戸惑ったらしく、麻祈がつんのめった。

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「他の選択肢もあるでしょう。ここ、駅にも住宅街にも近いので、個人経営の居酒屋から大手チェーン店のファミリーレストランまで揃い踏みしてますよ。ピンキリに。キリはオススメしませんけど」

「しないですよ。普通」

「見どころとしては、後ろ向きにピンなんですけどねぇ。今日はどこまで堕ちてるんだろうと気に掛かかってポツポツ足を運んでるんですが、今のところ底が無くて。キリなのにキリがないのがまたもやもやして覗きたくなると言うか……」

「限りなく嫌な注目の的ですね。それ」

 半眼になってうめく麻祈に、似たような波長で言い添える。

 そのまま言及することなく、麻祈が矛先を変えた。

「バスで帰るんでしたら、駅前の方が都合がよろしいんじゃありませんか?」

「いいんですよ、そんなの。気にしないでください。わたし、帰ることよりも、今は食事の方が楽しみなんですから。頑張って歩けば、ここから自宅だって徒歩圏内だし」

「はあ。となると―――」

 と。

 気が付いて、紫乃は小首を傾げた。はずみで肩からずり落ちかけたカゴバッグを掛け直す。

「麻祈さん、なんだか急に楽しそうです」

「あれ。顔に出てましたか」

 まるでタイミング悪くヘマを見られたといった風に、ばつが悪そうに麻祈が応える。しかし観念する切っ掛けにもなったらしく、思い当たるふしを白状してきた。

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.着替えて玄関から出てきた麻祈は、穿き古したジーンズに、それよりは新しいシャツといった格好だった。やはり長袖で、頭のてっぺんからつま先まで完全夏仕様の紫乃は居心地悪く感じたが、本人は歯牙にもかけていないようだ。以前見かけたボディー・バッグは仕事用なのか、携帯電話と財布だけポケットに入れて手ぶらである。施錠し終えた鍵もまとめてそこに突っ込むと、結わえられたキーチェーンが波打った。

 アパートの階段を、三階から一階に降りる麻祈についていきながら、会話を交わす。

「ええと。どこにしましょうか。夕食。坂田さん、アレルギーとかあります?」

「ないですよ。麻祈さんは?」

「俺もありません」

「オススメの美味しいお店があるなら、教えてください」

「え?」

 ちらと振り返ってきた眼差しが、こちらの図々しい申し出を嫌忌するものではないと見て取ってから、紫乃はせりふを続けた。

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「あ、の……なんですか急にどんよりとして? だいじょ、大丈夫ですか? たんこぶ出来そうですか?」

「す、いません。ちょっとここしばらく、寝れなかったり、食事を摂れなかったり、欲求不満が。その。ごっちゃになって。はは」

 坂田へ向けてうつろに顔半分だけ笑いながら、ぐりぐりと壁紙に額を押しつけつつ、麻祈は必死に打開策を打算した。

(とにかく。一刻も早く食って出して寝ないと。最短時間で、それをこなすには―――)

 その一。坂田を追い出し、食って出して寝る。自前で。

(無理だろー。追い出すところからして無理なんだからフルコンプ俺は無理だろー。となると、)

 その二。坂田を追い出さず、食って出して寝る。部分的に自前で。

(どの部分を誰が持つんだよ。もー考えたくもねーよ)

 つまりは、その三。それしかない。

 麻祈は、どうにか立ち直って、坂田に提案した。

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(諦めろよ。こわいんだろ? 嫌なんだろ? 俺に関わってロクなことなかっただろ? そうだよ。それでいいんだよ。だったら、―――)

 手が落ちると、肩も落ちた。目線も、下に傾ぐ。スカートの下に、やわらかそうな対のふくらはぎが覗いていた。

 眺める。いつしか、それは、舐めるように。

 素足の足首から、ひざ下のくびれ、そこから衣服に隠された太腿へと虚妄が及ぶ。その奥、更なる深みへと沈む。夏服は薄そうだった。実際、先日は、雨に濡れただけで透けていた……なめらかな産毛を生やした、やわらかそうな湯葉色の胸元と、そこに這う菫色をした静脈を思い出す。そう言えばさっきは夢うつつに射精しただけで、生殖器の刺激による快感を追い損ねていた。今なら塒(ねぐら)まで引っ張り込むまでもない。立位なら立位ならではの自由度と醍醐味が―――

(あーもう。ああもう。あほだ。サルだ。勘弁してくれ)

 臍の奥で悪寒が燃える。その火種を揉み消すように、麻祈は自分の横面を叩きつけた。そのまま、握り込む。

 その物音に異様に驚いた様子で、坂田が振り返ってきた。頬骨から鼻筋にかけて手をあてがったままの麻祈を見て、うわ言じみた震え声を振り絞る。

「ご、きぶり、素手で、やっちゃったのかと、思いました……」

「……例え話として、実に惜しい……」

 ひとりごちた途端に、坂田が鼻白む。

「おし、惜しかったんですか!? ニアミスったんですか!? 手!!」

「ははは。あはははあ。そんなわけありませんですよぉ。ははは」

 そうだ、惜しかったのは例え話だ。本能も害虫も、快感めがけてまっしぐらという点では、非常によく似た存在だ。あの虫も、本番前は丹念に戯れるらしいし―――

「おととい来やがれゲス野郎(Go fuck yourself, Dick!)」

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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