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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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.姉の漱とは、年齢よりも、性格が輪をかけて違う。

 それは過去から幾重にも渡り痛感してきた事実だ。ワラジムシをダンゴムシに矯正しようとして延々と圧殺を繰り返す姉の指先に、恐れをなした幼少時代。「姉妹仲良くお人形遊びでも」とプレゼントされた金髪の女の子の人形が、関節という関節を組み替えられた末に新興宗教の偶像っぽいなにかへと変貌させられた挙句、仏壇に供えられていたことにトラウマを負った幼年時代。人気のない路地を歩いていたら、髪型の斬新さや出で立ちのけばけばしさからして絶対に関わったことが無いと断言できる人種の複数人にいつしか囲まれていて、差し出す財布なんて無いのにと硬直していたところ「スーギィの妹ちゃんじゃね? あ。漱ね。スーギィって」とニコヤカに話しかけられた学生時代―――

 沸騰した心拍が、凍った血液を叩き割るような錯覚。あの感覚は、今は無い……無いことで逆に、不信感を懐柔されているような猜疑心が湧き起こる。紫乃は半眼で、姉に呻いた。

「なんで桃色わたがしにゃんこポイミーの絵本と刺青の写真集と通販カタログ雑誌(家具)が、本棚に一列で並んでるの?」

 姉は、目をぱちくりさせた。

 そしてその向きを、すぐに着替え中の自分の手元に切り替える。姉の部屋の姉のベットでぐうたらと腹這いになったまま本棚を指差す妹よりも、仕事着から部屋着へと楽になる方が、優先順位は高いようだ……あるいは、着替えの先にある、夕食や入浴などといったものの方が。それらさえも済ませてだらだらする紫乃など、アウトオブ眼中でも仕方が無いところだ。

 それでも、愛想は残されていたらしい。ちゃきちゃきと衣服のあれこれを脱着しつつ、言ってくる。

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(……あの時は、言い返すことができなかった)

 日本に定住し始めた当初、女友達だと思っていた何人かと、彼女らの助っ人だと称する取り巻きに囲まれて、交友関係を明確化しろと集団直訴された時。

 被告である舶来品の青二才は、おしなべて乳臭く、己と“和”についても希望的観測しか持っていなかった。ふわふわとした白っぽいまるのような空気感を絶やさない集団力学を成す一員になることが、自分にも可能であると疑うことすらなかった。だからこそ疑いもなく、一事が万事とばかり“和”に献身した―――勉強から愚痴まで親身に何時間でも付き合って、座談会から密会まで選り好みせず心を砕き、そうすることに誰彼と分け隔てたりもしなかった。年齢も。男女すら。

 それこそが非難されているのだと、理解できなかった。

 だからこそ今になってまで、その言葉は臓物を焦がし続ける。

「あんたは自分が特別だから、ほかの誰も特別になんて出来やしない、人でなしだ」

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「―――あさ、き、さん」

 立ち止まる。顔半分だけ、振り返る。

 ドアの隙間から差し込んだ陽光は、一丈なれど、夏の兆しを強烈に芳(かぐわ)せる明度で店内に帯を引いた。それを背負い、ずるりと伸びた己の影が、坂田の足元まで及んでいる。明確な変化を判別できたのはそれだけだ。荒らされたテーブル席も、そこにいる佐藤と坂田も変わらない。同じように、こちらとて。

「それがなにか?」

 答えはない。

 つまりは、それが生粋ジャップどもの答えということか!

 自虐の味は噛むほどに麻痺し、もう苦くも不味くもない。店の外に出て、歩き出す。
行為や動向に目的があるわけではなかったが、立ち止まっていると無目的であることに気付かされてしまうので、とりあえず進むしかない。なにも考えていなかったせいで、曲がり角でぶつかりかけた女へと口にした詫びが日本語でなかったことに、今になって気づいた。英語? 米語? フランス語だったか?

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.衣服の定位置から財布を取り出して、手探りで摘まみ出した幾らかの紙幣を、わきにいる佐藤に手渡す。

 恐らく佐藤は、鎖骨をノックしてくるかのような麻祈の裏拳に対して、反射的に両手でガードしただけだったのだろう。かざした自分の指にひっかけられた紙ぺらに向けて、不思議そうに唇を尖らせる。

「なにこれ」

「全員分の総勘定。釣りがあるならとっといてくれ」

「多いっしょ。いくらなんでも」

「延滞料金だろ」

 佐藤は、金を手に閉口した。

(慰謝料は無いのかって言えよ)

 そんな低俗な皮肉の切り返しで構わない。そのひと押しがあれば、坂田も麻祈こそが諸悪の元凶だと見なすカードが増える。

 そこを見越しての軽口だったのだが、こんな時に限って、佐藤は便乗してこない。真顔のまま、距離を保つ。計画には乗ったが、悪乗りまではしない。そんなところか。佐藤なら。

 坂田はどうだろうか? 正直もう責め苦と向き合うのは御免願いたいところだったが、それでも彼女へと、三度(みたび)の一瞥を触れさせる。その面貌に泣き笑いはない。そのうち、泣き出すか笑い出すかしてもおかしくない。どうとでもとれる、うす暗く弛緩した東洋人の顔。

 苦手だった。

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「麻祈さん、どうして、駄目ですか……?」

「どうして?」

 これになら、答えられる。

 麻祈は、口を割った。

「どうしたところで駄目ですよ。俺には、端から、どうしても駄目も無い」

 そう。それ以前の話だ。

 寄越せる答えを見つけた途端に、飛びつくしかなかった。こんな浅ましい自分には、“どうして”だとか“駄目なのか”とか、論じる価値など最初からありはしない。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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