.茶葉の匂いがした。茶葉の味まで感じないうちに、口を離す。
「サアお立ち会い(Hokus pocus)―――」
つい口走ってから、麻祈は顔を上げた。聴衆ふたりへ。
小杉も坂田も、表情を消し飛ばして動けずにいる。それを粉砕しなければならない。
麻祈は、口の両端をアンバランスに吊り上げた。可能な限り野卑な顔つきを目指してみるものの、作り笑いに慣れた能面の皮では、ぎこちない痙攣ばかり目立ってしまう。そのひくつきを、己の性癖を露出する快感に酔い痴れた変態の武者震いとでも勘違いしてくれるよう祈りながら、佐藤の肩を掴み寄せて胸倉に抱き込んだ。彼女は、されるがままで抵抗しない。その構図は、やはり自分には、人質を盾に駄々を捏ねる犯罪者のなれの果てにしか見えなかったが。
だからこそ、そのイメージを追い風に、大見得を切る。
「実は俺こそ正真正銘の泥棒猫で、生まれてこのかた家庭がある女性への横恋慕でしか興奮しないんですよね」
言い切った。刹那だった。
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