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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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  宇宙にあって、なんでも(光まで)吸い込んでしまう存在、ブラックホール。このブラックホールについて、「大きなブラックホールはなんでも吸い込むけど、小さなブラックホールはモノを吐き出し続けて最後にはバーンと爆発・蒸発してしまう」という説を唱えたのが、ホーキング博士だ。

 あくまで俺っぽい解説だから、重箱の隅をつついてきて欲しくないんだが……

 そもそも宇宙のそこここに浮かんでる「星」ってのは、お互いの重力でくっついて固まってる。俺たちが地表にくっついてるのも、この重力のおかげってわけだ。
 そして星は、この、「集まろうという力≒重力」と別に、「膨れて張ろうとする力≒核融合反応」を中心に持っている。この、集まろうパワー・膨れようパワーで釣り合いが取れているのが、今の地球みたいな状態だ。

 さて。この釣り合いが取れなくなる日が、やってくる。つまり、核融合反応が起こせなくなるくらい、核が燃え尽きてしまう日だ。

 こうなると、星はどんどん重力に押し込められて小さくなっていく。縮んで縮んで縮んで……途中で爆発して余計なものを全部ぶっとばして、お待ちかねのブラックホールの誕生だ(余計なものを全部ぶっ飛ばせなかった場合は、『中性子星』として生き残ることになるが、それはまた別の話)。

 さて。

 重力は、星の中心ほど強くて、離れるほど弱くなる。ロケットは地表から飛び立って宇宙まで到達すると浮かぶ(大気圏から無重力圏に脱出する)わけだけど、これは【核→地面→空→宇宙】という風に重力が薄れていくからだ。

 そして、星にとっての【核→地面→空→宇宙】と似通った構図が、ブラックホールにも存在する。

 ブラックホールの中心を『特異点』って言うんだけど、『特異点』に吸い込まれて光さえ逃げられない範囲を『シュバルツシルト半径』って言う。『特異点』にコンパスの針を刺してグルッと『シュバルツシルト半径』で円を書くと、いわゆる『事象の地平面』の出来上がりだ。
 乱暴なまとめ方だが、分かりやすくするならこんな風だろうな。

 で。またまた乱暴にまとめにかかると。この『事象の地平面』の境目で、『特異点』目がけて吸い込まれていくモノと吸い込まれ損なったモノのバランスが崩れることによって、ブラックホールは”モノを吐き出す”ようになるんだ。

 この、吐き出された”モノ”は『熱』の形をとっている。だから、吐き出せば吐き出すほどブラックホールは周囲より熱くなって、だからこそ周囲との温度差で冷やされて、最後には蒸発してしまう。小さなブラックホールほど、こういった状況に陥りやすいんだ。

 はーい。以上が、ホーキング博士が提唱した、俗に言う『ブラックホール蒸発説』です。ついでにこのブラックホールから吐き出される熱(とされるもの)を、『ホーキング輻射(ホーキング放射)』って言います。

 ま。興味が湧いたら調べてみるこったな。

 蛇足だけど。逆算すると、地球だってめちゃくちゃ縮まればブラックホールになっちまう。つっても、質量からシュバルツシルト半径を導き出すに、その縮み具合は『事象の地平面』半径9mmというサイズ。無理です。無理でーす。

 ちゅーわけで、今回はこれまで!

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  Topper(トッパー)は、Top hat(トップハット)の愛称だ。

 日本じゃ『シルクハット』って呼び方が一般的らしいけど、俺がいたとこじゃ熟練工の手で絹から仕立てられた高級品だけをシルクハットって呼んでて、同型の安モンはトッパーってカンジ。だからやっぱ、シルクハットにウサギつめつめ、なんてのは言語道断です。うんうん。

 ちなみに、ぺこんと潰せてコンパクトに出来るタイプは『オペラハット(あるいは発明したフランス人の名に由来してギブス)』とも言う。オペラを観劇する際に便利なタイプだな。

 魔法使いってなると、とんがり三角帽子に杖ってイメージだけど、魔術師・奇術師(マジシャン)となるとやっぱりトッパーに杖だよなー。上流階級者の夜会に一興、ってのがマジシャンの始まりらしいから、きちんと正装してる雰囲気がある。

 そだ。ついでに、杖について。

 俺がいたとこじゃ、紳士が手にした杖は、隠し武器の用途が強かった。仕込み杖ってやつさ。柄を引き抜くと抜き身の刃が出て、野党と一戦交えることができるってわけ。まあ、本当にンな血煙劇場が路上で繰り広げられていたかは知らん。ほかにも、銃を撃てたり、鋲(びょう)を放つことが出来たりと、色々なタイプの杖があったらしい。ギミックが多いと手入れも大変そうだし、タマ詰まりや暴発などの危険性も孕むから、趣味人以外は手を出しそうにないけど。どんなもんなのかな。

 それは後年、傘の役割に取って代わられた。日常的に携帯していても不自然じゃないものが、杖から傘に代替わりしたってわけ。世界大戦の折には、毒針を仕込んだ『コイツ』を使っての暗殺がたびたびあったって話だ……柄を、キュッとひねると毒針が先っちょからピョン出て、ちくっとターゲットを刺して、またキュッとひねって戻し、あとは立ち去る。しばらくしたら、ターゲットは生き倒れに早変わり。遅行性の毒なら、ターゲット自身が被・犯行現場から移動してくれてるから、万が一の物証も紛らわされてしまうって寸法だ。

 いや、そんなおっかない頃のことでなく、現代でも値段の張る『仕込み傘』は売ってるぞ。んでも、その中身はさほど物騒なもんじゃなくて、お気に入りの洋酒の小瓶になってたりする場合が多いけどさ(笑)。

 日本じゃ安物の傘がぽんぽん売られてて、見知らぬ連中が気楽にとっかえひっかえドロボーのやりっこしてっけど。俺はがきんちょの頃にゃあパリッとスーツでキメたジェントルマンが細身の布傘を携えてるキリッとした出で立ちに憧れたもんだから、あんましビニール傘を持った背広姿のサラリーマン(日本の)が好きじゃない。背広のジャケットを脱いだサラリーマン(日本の)並みに好きじゃない。

 ま、医療職になった今の俺にとっては、メジャーな杖と言えば病人&老人の歩行補助具が関の山ってとこかな。やれやれ。ジェントルマンへの道は厳しいね。

 んじゃ、今回はこれにて。

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.女性らが佐藤の目論見通りの配置に着席したのは、背後の物音やなんやで見ずとも知れた。ただ、全部が全部計画通りといったわけではなかったらしく、麻祈の真後ろについた佐藤の発言は目に見えて減っている。どうやら、安全弁の一助として期待していた人物の登場を待たず、火蓋が切られてしまったようだ。これからの火の海の航海を、どのような舵取りで乗り越えるのが最良か、必死に考えているのだろう。

 ただし、そういった海原の嵐が船長の判断を待つことが無いように、小杉の勢いも止まらなかった。なにやら滔々と、自分と麻祈の付き合いについて誇示し、尊大に喋る―――恫喝さえ混じる、その中で。

 聞こえてきたのは、坂田への嘲弄だった。

「手出ししたくなるのも分かるけどさぁ?」

 坂田への愚弄だった。

「あんたみたいなボッチいOLからしたら、」

 まぎれもない侮辱だった。のに―――

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.声量としては、むしろ小さい。口ぶりとて、穏やかだ。それなのに、裏がある気配は無限大だ。例えるならそう、ブラックホールだ。量だの波だのなんて尺度が通用しない、ぞっとする虚(うろ)。ホーキング博士、このサイズならいつごろ蒸発してくれますでしょうか? ―――

「お久しぶりですう。小杉由紀那です。明るい時にお会いするの初めてですねー。話題が明るかったらもっと良かったんだけどー」

 ブラックホールのホーキング輻射のように、含んだ気配を増大させながら撒かれていくせりふに、冗談に逃げておれなくなる。麻祈は椅子の上で、こわばった両手を腿のジーンズにこすり付けた。指の腹に汗を感じたわけではなく、汗のようにまとわりついてくる厭な感覚を拭いたかった。泳ぎ出す目も、あれこれと見積もりを試し出す思考も止められない。

(いやいやいや。いやいや。そもそも。あれは小杉さんか? 本当に小杉さんか? もっとカラッと暖色な意味で、裏表なく派手カラフルじゃなかったか? こんな―――)

「アサキングめ、にゃろう、大正解(Bull's eye)だ……派手にカラフルなところが美技な、かつ初心者(Biginner)でない派手カラフルな美女……そしてもう、なんちゅーか動詞的にも超強気(BULL)だ……そんなこっちはブルブルだ、まさしくだ―――いっそのこと、こんな正解者には景品としてアメ玉(Bull's eye)でもくれてやらねば!」

(ああ小杉さんだ。間違いなく小杉さんだ。やっぱり小杉さんなんだ)

 聞こえてきた佐藤のジリ貧ボイスに言い逃れを折られ、麻祈は眉間を押さえた。頭を抱えたいところだが、帽子と手拭いが乱れるのでそれも出来ない。本当は、締め付けてくる帽子を脱いで、頭痛の元を一つでも減らしたい。前者と同様の理由で不可能だが。

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.ぽつんと座席に残されて、麻祈は身じろぎした。身じろぎだから、すぐに終わった。

   それから数秒か、はたまた数分か―――ドリンクでも注文すべきだろうかとふと思いついて、カウンターに視線を振るのだが、そこにあったはずの老いさらばえた背中たちはとうに去り、もろとも店長と思しき老爺さえ影も形もなくなっている。さすがに、帽子に締め付けられた頭蓋が痛み出してきた。脱げやしないのだが。

 思うに、皮肉に勘繰るには、これはネタが多すぎる。

「……席に着いて(Take your seats!)・よーい(Ready set!)・ドン(Go!)ってか? なおのこと、Ready!, Steady!, Go! の俺には釣り合わねーじゃん。はッハ(Ha-hah,)、笑えねー……―――」

 悪い冗談は、悪感を紛らわせてくれるほど上出来でもなく、悪寒を錯覚させてくれるほど不出来でもなく、生半可に喉をくすぐって呼吸を重くする。己に賭けるのは諦めて、麻祈は外界に慰めを求めた。休日。昼下がり。喫茶店。カーテンは粗茶の出し殻色。暦年に渡って紫煙に愛でられた壁紙も、それとドングリの背比べ。木で造られた天井の送風機は本格派だが、ちんたらと回り続ける風貌は店内の様相と相まって、レコードと蓄音機よりも音割れしたラジオとくたびれたポスターを相棒にしてやった方がしっくりきそうだ―――

 そして。カラン、とロックグラスの氷が崩れる音がする。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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