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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「じゃあタメ口なのは? いつから?」

「帰国して最初にオタク会した時から」

「え? じゃあ一緒に帰国したっていう旅路ではどうだったの?」

「覚えてないよー。馴れ馴れしいってカチンときた思い出もないから、親しみやすい程度にお互いにオアイソしてたんでない? ちゅーか、職場の同僚女とフツーに旅行するだけじゃ、誰だってそんなもんでしょ」

「それはまぁ……そうかも知れないけど」

「勘繰られるこっちゃないよー。オタク会であいつがタメ口になったのだって、あたしに言い寄ってのことじゃなくて、これからオタク話しようってのに、同僚に慇懃な言葉遣い―――院内口調を続けるなんて、水差す以外のなんでもなかったからだけでしかないと思うよ。合コン前に電話したっしょ? 野郎は同業者以外と同業絡みの話なんてしたがらないだろうって。それだよ。仕事と私生活は分けたがるタイプ。あいつ、ごく稀に勤務時間内に勤務のことであたしと話す時は、ちゃんと一人称ワタシのデス・マス調だもん」

「同僚なのは―――同僚だからだよね?」

「疑問を挟む余地ないと思う。それ」

 じゃっかん呆れたように、葦呼。

 これだって呆れられるのかも分からないが、それでも躊躇いを隠しきれずもじもじと俯いて、紫乃は切り出した。

「……キ、スしても、平気なのは?」

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「ある日、上に、ちょいと長めの休暇申請したのさ。そしたら後日、お前あいつと付き合ってんの? って茶化された。どうやら、あいつと休暇を取るタイミングも日時も、ばっちりダブってたみたいで。それまでにも何回か話してたとこ見られてたから、それもあって」

「それで?」

「んで、その休暇の時に、あいつと空港でたまたま鉢合わせして。話してみたら、おんなじ数学趣味じゃん。なりゆきで、そのまんま一緒に講演聞いて帰国したんだけど。あいつ相当に日本のリアル仲間に飢えてたのか、それからちょくちょく暇を見つけては、オタク会しようぜって誘ってくるようになって。別に断る理由も無いから付き合ってたんだけど」

 思い出しながら喋っているようで、どこか間延びした口調になりながら、

「それから、もーちょっとあとだったかな。職場で職業以外のことに煩わされたくない、要は異性関係の詮索されるのが面倒臭くてたまんないから、ちょうどあたしと噂が立ってきたこともあるし―――多分オタク会を目撃した職員がいたんだろね―――、このままあたしと男女交際してることにしてくれないかって頼み込んできたの。あたしに本命できるまででいいからって」

「……それをオーケイしたの?」

「うん。あたしにもメリットない話じゃなかったし、それ以上のデメリットもなかったから。どっか不思議?」

 どこも不思議ではないらしい。葦呼の感性からしてみれば。

(あたしだったら、彼氏ナシのところをつけ込まれた上に都合良く利用されるとか、ありえないけどね……)

 はたして麻祈は、そういった側面での誠実さに欠けているのか、それとも葦呼の価値基準に則って割り切ることで利を取ったのか? それは分からないし、だから重要でもないが、がっかりはした。重要でもないが。

 内心で言い聞かせて、紫乃は会話―――なのか会話にかこつけた取り調べなのか―――を続行した。

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「ほえ? いや待て。マジ待て。求婚されただけで、そーいったアレな過去はないぞマジで。まあ付き合ってるってのに付き合ってくれってんで今もこうして付き合ってるから元カノってか現カノ進行形だけど職場では。でもそれ、ほんとあいつがキングなだけで」

「どんな理論!?」

「うーん。理論じゃないから」

「じゃないから!?」

「理に則れないゆえ論ずると長びくから」

「から!?」

「また次ん時でいくない? うー。お喋りって非効率的。のびのびローング。どこまでもびよーんぐ」

「葦呼」

 ふっと紫乃は、自分の声のトーンが落ちたのを感じた。

 と同時に、緒が切れた堪忍袋が落ちるのを予感した。

 それを臭わせる。

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.    携帯電話の受話器部分を押さえて大息を吐き、紫乃はどうにか喉元の痙攣をやり過ごした。決まり悪くベッドの上で身じろぎして、ついでに濡らした指先もパジャマの端っこで拭いて、くすぶっていたがる内心にけじめをつける。

「葦呼は、どうして……そんな、麻祈さんの生まれ育ちの話を知ってるの?」

「うーん。求婚されたからかな」

「きゅっ!?」

 目が点になる。

 点になったことに、それでも抗ってみる。

「球根?」

「おお。アサキングとならそっちの方が楽しめそう。やべ。今度誘お」

「冗談やめて!」

「え? それ紫乃のせりふ?」

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.   ただの大声だ。怒鳴りつけたのなら怒っていたのだろうし、悲鳴を上げたのなら悲しかったのだろうけれど、そういった判断が成せてしまうくらいに感情は遠くにあった。

 それはそうだとも。これは反感ではない。反論だ。

「そんなこと言わないで―――麻祈さんは、珍獣なんかじゃない! 珍しいとこだって、どこにもない!」

「へえ」

「本当に、本当なんだから! 確かに、なんでか冷凍庫にレトルトカレーとビーフジャーキー入れてるし、冷蔵庫に歯ブラシ入れてるけど! お洗濯だって段ボール箱から噴水にしたまま畳んでないし! 平気で半裸のまま玄関に出るし! 約束したのに忘れてるし―――!」

 そうなのだ。

 どれもこれも。

 嘘偽りなく、本当に。

「忘れてたら謝るくせして、許されたらありがとうって笑うし! 辛そうなことも誤魔化すし、いいことしても誤魔化すし、どっちだってそれは俺の身勝手ですからなんて言うし! それが珍しい動物なら、それこそ、それを指差すそいつらこそが、世にありふれたド畜生じゃないか!」

 電話向こうからの返事はない。

 言い返されたなら、どれだけでも大音声を続けることが出来たろう。同意し、保障し、慰めてくれたなら、それこそ葦呼に言葉の続きを委ねてしまえたかもしれない……筋道の整った、誰もが納得して受諾するに違いない話に、してしまってくれたろう。彼女ならば。

 これだけは絶対に、そんなふうに片付けさせたくはない。

「やめてよ、やめてほしいよ。おねがいだよ。つらいんだよ、だからしないで―――」

 こじれていなければ受け入れられないような、ややこしくもなんともないもの。

 それは、あまりにありふれていて、目に見え、口にするたび、うとましい嘘臭さを纏うようになる。

 今この時でさえ、それは例外ではない。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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