. 携帯電話の受話器部分を押さえて大息を吐き、紫乃はどうにか喉元の痙攣をやり過ごした。決まり悪くベッドの上で身じろぎして、ついでに濡らした指先もパジャマの端っこで拭いて、くすぶっていたがる内心にけじめをつける。
「葦呼は、どうして……そんな、麻祈さんの生まれ育ちの話を知ってるの?」
「うーん。求婚されたからかな」
「きゅっ!?」
目が点になる。
点になったことに、それでも抗ってみる。
「球根?」
「おお。アサキングとならそっちの方が楽しめそう。やべ。今度誘お」
「冗談やめて!」
「え? それ紫乃のせりふ?」
苦肉の策に悪気なく悪乗りされて、紫乃はなおのこと逆上した。分かっている―――葦呼に悪気が無いのは、紫乃が利己的に話題を逸らそうとした醜さを強調するつもりではない。いつだってそうで、良く言えば天然というタイプだ。それはそうなのだが、間が悪いにもほどがある。
誰しも、悪気がない人柄を好むに違いないのだから。
誰だって、天然と言われるくらいでちょうどいいに違いないのだから。
麻祈とて、それは例外ではない。のか?
「求婚ってなに!? 葦呼お付き合いしてたの!? そういや抱き合ったってキスしたって平然としてたしふたつ折りのケータイだってタイプお揃いだし同僚だしタメ口だしタメ口だしっ! なにそれ素知らぬ顔して元カノが恋愛相談聞いてたのっ!?」
攻め立てられた葦呼といえば、こうだ。
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