「どう、って……」
「あの派手カラフルな美女は、まず間違いなく嘘だって決め付けるか、じゃあ女としてのあたしを見てよって攻勢を厳しくしたんじゃないかな。こう言っちゃアレだけど、あの人は紫乃を格下に見積もっていたみたいから、“どっちも”なんて並列に扱われた時点からカチンときてる。絶対に認めない。だったら引き下がらない。引き下がったとしても、それはあとからアサキングに変化球ブチ込むためのフェイントだ。あの子が傷つかないようにみんなの前では振ったふりしたんだろうけど、あなたはそんな意味でさえ優しい人だって、あたしだけは分かってるから、……とかなんとかって後手が来る」
思い返してみると、ありえる話だとは思えた。ただ、断言する葦呼に納得を強いられている気がして、それに反発するように紫乃は食い下がった。
「自分にとっては、どちらも友達です。は?」
「論外論外。とんでもない。女友達からオンナ枠に昇格させようって、さっきのより三万倍ねちっこく増長したオンナ攻めが待ってる」
「オンナ攻め?」
「うん。あたしも聞きかじりだけど。我が物顔で目覚まし時計より早くモーニングコールかけてきたり、わけ知り顔で約束も口約束もしてないのに部屋まで押しかけて来たり、その挙句にこれ好きだったよねって疑いもしないで勝手に冷蔵庫のものあさって料理したり、」
「りょ」
「どしたの?」
「いやいやいや、なんでもないっ!」
(しなくてよかった! しなくてよかったあ!)
心中穏やかでない紫乃を知らずに、葦呼は説明を続けている。
「とにもかくにも。カリカチュアのビリーヴァーには、もっともらしい真実より、ひょっとしたらあるかもしれないって嘘だよ……有名医大の主席で帰国子女・名家生まれの将来有望イケメンドクターという千丈の堤を倒壊させる蟻の一穴を、あいつはあん時、必死に考えたんだろ。夜の公園の砂場で殺した昆虫の山にライターで火をつけるって趣味は咄嗟に潰しちゃったもんだから、それ以外にしなくちゃいけない。色恋絡みだから、色恋関係の醜聞なら食いつきがいいはずだ―――てな具合に」
「そ、それで、あのペテン?」
「だろね。あん時アサキング、ぽそっと、ホーカス・ポーカスつってたし」
「ぽ?」
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