「じゃあタメ口なのは? いつから?」
「帰国して最初にオタク会した時から」
「え? じゃあ一緒に帰国したっていう旅路ではどうだったの?」
「覚えてないよー。馴れ馴れしいってカチンときた思い出もないから、親しみやすい程度にお互いにオアイソしてたんでない? ちゅーか、職場の同僚女とフツーに旅行するだけじゃ、誰だってそんなもんでしょ」
「それはまぁ……そうかも知れないけど」
「勘繰られるこっちゃないよー。オタク会であいつがタメ口になったのだって、あたしに言い寄ってのことじゃなくて、これからオタク話しようってのに、同僚に慇懃な言葉遣い―――院内口調を続けるなんて、水差す以外のなんでもなかったからだけでしかないと思うよ。合コン前に電話したっしょ? 野郎は同業者以外と同業絡みの話なんてしたがらないだろうって。それだよ。仕事と私生活は分けたがるタイプ。あいつ、ごく稀に勤務時間内に勤務のことであたしと話す時は、ちゃんと一人称ワタシのデス・マス調だもん」
「同僚なのは―――同僚だからだよね?」
「疑問を挟む余地ないと思う。それ」
じゃっかん呆れたように、葦呼。
これだって呆れられるのかも分からないが、それでも躊躇いを隠しきれずもじもじと俯いて、紫乃は切り出した。
「……キ、スしても、平気なのは?」
「口なんて誰だってついてんだから、くっつく事だってあるでしょ。ただでさえとんがってんだし」
「よりによってそんな割り切り方!?」
ショックのまま悲鳴を上げるのだが、葦呼はそれに引きずられるでもない。ぽんぽんと小気味よく返事を続けるだけだ。
「そりゃそうだよ。あたしがそう出来るから、あいつも暴挙が出来たんだろうし」
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