「しかも名前がダン・アサキとくりゃね」
「名前?」
「ええとね。紫乃。誰でもいいから、白色人種を思い浮かべて。背と鼻が高い、青い目をした、色白の。―――いい? 思い浮かんだ?」
「うん」
「その名はボンジュール山田」
ぶーと音を立てて、紫乃は吹き出した。
「口を開けば、生粋の土佐弁」
「やめてよ葦呼。また吹いたでしょ」
追撃してきたくせに、葦呼はしてやったりといった感も無い。淡泊に納得するだけだ。
「だろね」
「なんなの? 麻祈さんの話をしてたんでしょ?」
「してるさ。そいつ麻祈だもん」
脳裏が凍る。
表情は、ぴしりと罅割れていたかもしれない。あえぐように、聞き返す。
「なに、を、……―――」
「ダンは和名では段だけど、海外では一般的に男性名ダニエル・女性名ダニエラの略称だし、Fワードの“Damn”にこじつけてこじつけられない音でもないからね。日本におけるボンジュール山田をひっくり返せば、おおよそが、異国におけるダン・アサキさ。ペラペラの英語を似合わないなまりで喋る日本人のダン―――見た目を裏切る名前と鳴き声をした珍しい動物。それは珍獣だ。がきんちょとしては、いじくって遊ばずにおれないでしょ。しかもクラスにいるのが期間限定とくりゃ後腐れもないから、遠慮しないでいいし」
当たり前の摂理を踏襲して、葦呼の裏付けは進んでいく。彼女はそれを疑わず、だからこそ躊躇わずに。
「ちやほやして保護するか、どつき回していじり倒すか。そうするっきゃないよ。だって同属じゃなくて珍獣だもん。自分たちを退屈させるな。珍奇な動物としてのツトメを果たせって―――」
堪らなかった。
「もうやめて」
紫乃は、大きく声を上げていた。
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