. どこまでも理解の糸口が得られない。
素っ頓狂な問いかけに、紫乃はありのまま答えるしかなかった。
「あたしだって、今だって日本人だよ?」
「うーん。本気で分かってない」
(なによ)
棘の無い言葉に、だからこそ引っ掛かる。葦呼はいつだって邪気無く、紫乃の邪まな奥底を突いてくる―――他意も無く、悪意も無く、だからこそ他意と悪意を勘繰らずにおれない凡人のことなど及びもつかない。自分は、そのくらいしか分からないのに!
(駄目だ、それじゃ)
紫乃は、ぐっと吐息を呑み込んだ。
それを、吐き出す頃には声に替えた。頭も下げる。
「うん。そうなの。わたし、分からないんだ。それでも、分かりたいって思うから。だから葦呼。それについて、教えてください。お願いします」
「……あー……」
今度は葦呼が、戸惑うように黙り込む。
紫乃が寝ころんでいたのをやめて、ベッドのマットレスに腰かける姿勢を正した頃になって、前振りも無く話し始めた。
「例え話で言うとね。紫乃。あんたは、いつものスーパーで、棚に整列した袋入りの野菜を買うとしよう。コールスローってやつ」
「うん」
「棚で、奥へと縦列駐車してる商品。その一番手前の袋を買う?」
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