. たまらず、そのまま夜道を歩き出す。
軽い足音が、ついてきた。
「……麻祈さん、親指のそこ、汚れて―――」
そうして、麻祈に触れてきたのは、声だけではなかった。
後ろから。指が。たくさん。この素手に。
“このあとのことを知っている”。
「―――……ッ!」
ぞっと肺腑からせり上がってきた悪寒に、身体が反射した。指の感触を引き千切るべく、振り向きざまに腕もろとも手先を薙ぎ払う。パシンと乾いた音を立てて、相手との接点が爆発した。ああ、スターターピストルは鳴らされてしまった! 始まる―――
せめて半身を返して、このあとの相手を確かめる。しかない。
のだけれど、そこにいたのは、坂田だった。
「Er? Ah,」
呆けて、麻祈は自失した。そこなのに、どうして坂田がいるんだ? そこ? どこ? 今は、いつ、どこ―――
そのすべてを理解して、麻祈は戦慄した。
「す、すみません」
伸吟を裂いて謝罪を口走りながら、坂田へと手を伸ばす。そこを、痛めさせてしまったかと思ったからだ。今しがた、かなぐり捨てておきながら。
ばっと半身を引いて、腕ごと彼女から遠ざけてから、麻祈は早口を重ねた。
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