「君も次は、快気祝いで来れたらいいね」
「だね。ねえ、兄ちゃんの国じゃ、誕生日の時どうすんの?」
「もちろん、今日の君を祝う。最っ高(Cheerio!)、誕生日おめでとう(Happy birthday!)!」
「わー。ハッピーバースデーって、やっぱり日本じゃなくてもハッピーバースデーなんだ」
「何度でも今日のこの日を(Many happy returns!)! ―――なんてのもアリだけどね」
そこで麻祈は、母親と目配せを交わした。恐らくはこの親子連れが、例の隣席の予約客なのだろう。長引かせる必要はないし、麻祈も坂田を待たせておけない。気になって、つい店の玄関を振り返る。
坂田が立っていた。
(―――は?)
豆鉄砲を食らった鳩と化して、坂田と見詰め合う。
車椅子がスロープを登り終えてから玄関戸をくぐって行く間だけ、ドアを押さえようとした坂田が奥に引っ込んだので、それは途切れた。親子が店内に隠れてしまう直前、少年から片手をひらつかされる。
「ばいばーい」
(お別れの時もCheerioだったりするんだけどなー)
そんなことを思ったりしてしまう自分に、場違いさを覚えながらも。
最たる場違いは、レジ前にいるべき坂田だということだけは、疑いようがないところだ。彼女は母親から礼でも言われたようで、ぺこぺこお辞儀しあってから、恥ずかしそうに浮き足立ってこちらへと駆けてくる。なんで来る?
近寄るにつれ、みるみる麻祈の機嫌の傾斜角が露見したようで、坂田は車椅子スロープの途中で立ち止まった。まだ話すには距離があるが、長いくらいでちょうど良いと思えたので、そのままつっけんどんに問いかける。
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