「すいませんでした。わたしは背が低いので、トランクからの出し入れだけは本当に手を焼くんです。助かりました」
「とんでもない。大事(おおごと)ですからね。一時的な負傷となると、車を買い替えるなんてことも出来ませんし、福祉車両をレンタルするのも、なかなか。しかも、こういった日本の車椅子用駐車スペースは、サイドに余裕があっても、バックまではね……」
麻祈が閉めた助手席のドアを、母親が施錠する間に、改めて乃介蔵の駐車場を見やる。これが、店舗の裏口に窓が付いている理由だった。篠葉も理解はしているのだ。己の店舗の弱点を。
身体障害者用の駐車場は、単に店に出入りしやすいように店舗から最短距離にあるだけでない。車椅子から乗用車に安全に出入りできるよう、ドアを最大角まで開口可能なだけの空間を確保してある。ただ、そういった両サイドの余裕で負担が軽減されるのは助手席-地面間だけで、トランクルーム(Car-boot)からの車椅子の出し入れスペースまでとなると埒外となりがちだ。
「―――かといって、頭から突っ込んで駐車するとなると、こうやって目の前が道路の場合、いつ他の車が行き交うか分かったものじゃない。車椅子を取り出すのに、もっと冷や冷やする」
「本当に」
色々と思うところがあるらしく、しみじみと母親が続けた。
「こんな立場になってから、どれほど暮らしにくいのか、身に沁みます。だからこそ、こんな時だからこそ、いつものようにこの子の誕生日を祝いたくて、ここに来たんですけど……」
「そりゃイケて(Hey for)―――!」
つい口笛し、口走りかけて、麻祈ははっと中断した。目を点にしている親子―――生粋ジャップの親子―――に、愛想笑いを取り繕う。
「―――って、ああ。失礼。いやあ、それはとてもいい案だと思いますよ」
「お兄ちゃん、ガイジンさん?」
少年の真っ直ぐな問いかけと眼差しを、はぐらかすしかなかった。
「かもしれないね」
外人。外からの異物(foreigner)。
複雑な思いを上書きすべく、話題を変える。
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