(―――んげ)
硬直する。乃介蔵の駐車場を見咎めたまま。
坂田はもう部屋にいない。麻祈の声掛けが出遅れたので、トイレに向かうでもなく、とことこと店舗奥のレジへと進んでいる。
どのことも知ってしまったのは、麻祈だけだ。
(あーもう、しゃーねぇなぁ)
麻祈は小走りに、坂田に追いついた。
こちらに気付いた篠葉は、会計機の前に起居を移している。店の中には、自分たち以外、誰もいない。
となるとやはり、腹を括るしかなかった。坂田を呼びとめて、その手に己の革財布を委ねる。
「すいません。会計これでお願いしていいですか? カードでと伝えて、これを丸ごと出すだけで構いません。篠葉さんが手続きを知っていますから」
「え? 麻祈さん? 忘れ物でもしたんですか」
「そう。ちょっと他にも」
首肯して、麻祈は財布を手放した。その手で、ぽんと彼女の手を押し出す。
「カードのサインしに、すぐ戻りますから、ちょっとだけそこにいてください。待っている間、レジ回りの壁に貼られた写真でも御覧になっていたらいいですよ。ホント、お勧めします」
坂田が疑うこともなく、レジに向かってくれた。麻祈はそれを尻目に、今来た動線を逆走し―――
さっきまでいた洋間に目もくれず、玄関から外に出た。ドアチャイムを掴んで、出入りの開閉音を殺すのも忘れない。
懸念は的中していた。店に隣接した駐車スペースに停められたファミリー向けの普通車の尻、そこにあるトランクルーム(Car-boot)から、ひと抱えもある巨大な荷物を取り上げようと小柄な女性が悪戦苦闘している。職場で見慣れているので、夜目でも分かる―――女性が手をかけているのは車椅子だ。
玄関の階段を飛び降りて距離を詰め、女性に声をかける。
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