「無理しないで。俺が手を貸しましょう」
「あ、……す、すいません」
ふってわいた助力に女性がおたついた隙に、麻祈は彼女と並んで車椅子の出っ張りを掴んだ。そして、
「とんでもない」
と応答し返す頃には、地面まで車椅子を運び出している。一般的な成人男性の膂力を以ってすればこのくらい扱えて当然だと分かってはいるものの、それでも麻祈は安堵した。こんな時にぎっくり腰でオチをつけるおたんこなすは、ギャグのフィクションからシリアスなノンフィクションまで無数に存在するものだ。
車椅子に手をかけたまま、わきの女性を顧みる。
「あの。どこにセットしたらいいのか、教えて戴けますか?」
女性は、まだ吃驚を呑み込めていないところに問いかけられて、急に反応できなかったようだ。乃介蔵の外灯を斜め横から受けた顔が、正直に困惑を燻らせる様は若々しい……それは、若々しいという言い方が褒め言葉として妥当なくらいの年嵩だという裏返しでもあり、事実として彼女の目角にわずかばかり撓んだ小皺は、使い込んできた暦年を感じさせた。それでも、渡りに船だったのは違いないようで、引け目の強そうな声音で呟いてくる。
「ええと。助手席のところで。……すいません」
「とんでもない」
車体の助手席側面、後部座席ドアに横付けするかたちで、麻祈はブレーキをかけた車椅子を展開した。そうしてみると、座席シートが薄いタイプの自走式だと分かる。重さから判断するにアルミ製だろう。なんとはなしに、レンタル品のように思えた。
トランクルーム(Car-boot)を閉めてから、女性が助手席のドアを開けた。麻祈はひょいと中を覗いて、中にいた少年へと、片手を軽く挙げる。
「やあ、初めまして。こんばんは」
「こんばんは……」
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