. 少年は、それはそれは可愛げなく仏頂面をもじもじさせつつ挨拶を返してくるが、その両足に包帯とギプスというオプションが付いている以上、慮れる態度ではあった。女性を見ると、親子らしい似通った形をした眉を、息子と似ても似つかない角度にしょぼつかせている。恩人にそっけなくする不作法に、心を揉んでいるようだ。
それを解くため、女性に話しかける。
「靭帯でもやりましたか?」
「ええまあ、他にも。学校のクラブで。ちょっと。転び方が悪くて」
「俺じゃなくて、先に倒れてた奴が悪いんだろ……」
むくれ声でボーイソプラノをすり減らして、少年が呻く。ぶつくさと。言い訳するように。
それはお門違いというものだ。冗談紛れに、麻祈はそれを保障した。
「そうとも。悪いのは君じゃない。もちろん、先に倒れていた奴でもない。運だ」
だろ? と目つきで問いかける。
すると少年は、にやついた。はにかんだようにも思えた。
「お兄ちゃん、うまいこと言うー」
「ついてなかったんだね」
「だね」
少年は助手席の上で身動ぎして、身体の正面を野外へ向けた。そこに回り込んでいた母親に抱きつくと、母親も子どもの太腿に両腕を回して、持ち上げる。ユーカリの木に抱きつくコアラのようなポーズだ。そうして、車椅子まで移乗させる。
それを終えてから、母親が改めてこちらへと頭を下げてきた。
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