「ううん。ふたつみっつ奥にあるのを買う」
「どして?」
「どうしてって……手前のって、誰が触って棚に戻したか、分かったものじゃないし」
「袋入りだよ?」
「それでも、さぁ」
「だよね。だったら、誰かが目の前で触って、棚に戻したヤツは買える?」
「いやいや無理無理」
「それが日本人じゃなかったとしたら?」
「きっともっと無理」
「なんで?」
「いやあの……なんとなく、だけど」
「日本人がそうしたのよりバッチい気がする?」
「う……いや、そうじゃないとは、知ってるけど……」
「負い目に思うことじゃないよ。同族以外はとりあえずはじく。それは防御本能だから。しゃーない」
テンポよく続いていくせりふを聞く紫乃は、それが葦呼らしくカスタマイズされた蘊蓄かなにかだろうと思い始めていた。日本人だの防衛本能だの、そんなものはテレビ画面の向こうにいる有名人が討議している議題なのだから、葦呼が持ち出すとしたらその延長線上の御託だろうと、都合良く解釈していた。
その化けの皮が剥けて、本音がやってくる。
「でもその野菜の袋。麻祈なんだよね」
[0回]
PR