「ほえ? いや待て。マジ待て。求婚されただけで、そーいったアレな過去はないぞマジで。まあ付き合ってるってのに付き合ってくれってんで今もこうして付き合ってるから元カノってか現カノ進行形だけど職場では。でもそれ、ほんとあいつがキングなだけで」
「どんな理論!?」
「うーん。理論じゃないから」
「じゃないから!?」
「理に則れないゆえ論ずると長びくから」
「から!?」
「また次ん時でいくない? うー。お喋りって非効率的。のびのびローング。どこまでもびよーんぐ」
「葦呼」
ふっと紫乃は、自分の声のトーンが落ちたのを感じた。
と同時に、緒が切れた堪忍袋が落ちるのを予感した。
それを臭わせる。
「人はね。効率的だから話す生き物じゃないんです。話したいから話すのです。要は、話してくれなさい」
「イェス、マム」
十二分に伝わってくれたようで、葦呼が従順に返答してきた。
語気を脅迫より前まで復元するよう努めつつ、紫乃は咳払いして問い質した。
「まず、付き合ってるってのに付き合ってくれってやつは?」
「ええと。どこから話せばよいものやら」
「ハナから話せばよいのです」
「はいマム」
ぶり返した怯えに声をひと震えさせてから、葦呼が再開した。
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