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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「今回のオタク会は急止。それを楽しみにとっとかないと、やってられない事件が表沙汰になった」

「事件?」

「こないだの合コンのあと、あんたに頻繁にメール連絡してくる女の人いるよね?」

「いるよ」

 質問の意図が不明だが、麻祈は答えた。小杉とのやり取りは、悪事でも秘め事でもないのだから。

 重ねて、佐藤が訊いてくる。

「どんな人?」

「どんな人って。美女だ。生粋ジャップが言うところの」

「もうちょっと内面寄りも含めて表現すると?」

.

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「じゃーん(Flexin'!)。コレだよーん。こないだの数学学会の抄録集」

「うん」

「有給使ってアメリカ行った甲斐あったよ。送った絵葉書、ちゃんとお前ン家届いてるよな? そこにもちょっと書いたけど、あの教授ならいつか本当にリーマン予想(RH)を証明してくれるんじゃないかって思えてきてさー。マジ盛り上がる(I'm too hype!)―――」

「うーん」

 佐藤の顔が晴れない。

.

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「よー。アサキング。ここ、ここ」

 その呼びかけと、へらへらと席から振られてくる手の合図に、麻祈も片手を軽く挙げた。加えて、五指のそれだけでなく、声を追従させる。

「よっす佐藤」

「よー。お疲れー」

「お疲れちゃーん」

 麻祈は、佐藤の正面の椅子に滑り込んだ。

 四人がけテーブルだったので、本は隣席に置く。連絡しておいた通り、彼女は注文を先に済ませておいてくれたようで、卓の上には麦・芋焼酎の水割り二杯と鰈(かれい)の山葵エンガワが並べられていた。そちらは麻祈用で、彼女の前には厚焼き玉子だ―――それと、なんの変哲も無い水。いつものことだが、佐藤は今日も飲まないつもりらしい。

.

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. 小脇にした冊子に体温が移る頃、麻祈は約束の居酒屋へ到着した。いつも使っている禁煙席を予約したのは自分なので、待ち合わせ相手がどこにいるかも分かっている。ならばそこへ直行してよかったのだが―――店内にこもった人いきれに、外気以上の吐き気をもよおして、麻祈は思わず店の入り口で立ち止まった。そして梅雨のことまで連想し、こうして思い出してしまった。

(ああ。嫌だ嫌だ。めんどうくさい)

 梅雨時は虫が湧く。のみならず、梅雨が終われば夏が来る……長袖でいるのが、最も辛い時期がやって来る。院内は、患者を慮った―――という名目兼、電気料金に優しい温度設定のクーラーが動いてはいるのだが、開放的なガラス張りが陽光熱まで受け入れるとあっては、まさしく焼け石に水だ。湿度の少ないところで生まれ育った麻祈には、日本本土・山陰地方の夏季はきつい。

.

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. 繰り返しの、かつ今更の話になるが。麻祈が日本に拠点を移したのは十八歳頃からだ。

 兄の桜獅郎はほぼ誕生直後に段の家督の後継者として拉致されたし、妹の羽歩も生後十年を待たずそれに次いでいる。麻祈は、きょうだいの中で最も日本に不慣れと言えた。実際、兄・妹・自分の順に、その適応能力の甲乙丙は歴然としていた。特に顕著だったのは“和”へのそれで、害虫への嫌悪反応がそれに次ぎ―――言い訳を許されるなら本当に親指大のゴキブリなど日本に来て初めて対峙したのだからしょうがないじゃないか!―――、そして季候耐性へと続く。続いてしまう。

(ああ。また、面倒な時期になってきたな……)

 梅雨。

.

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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