.沈黙。
説明を錬るためのそれでなく、こちらの様子を吟味するかのような葦呼のそれに、紫乃は目を白黒させるしか出来なかった。
「ど、ういうこと? それ」
「あいつね。日本の大棚企業に飼われた技術屋の父親にくっついて生きてきたから、生まれこそ欧米だけど、中近東から欧州まで転々としながら、長期休暇の時に都合がつきゃあ兄と妹が住んでる日本の実家に滞在ってサイクルで育ってきてんの。手に負えない出来損ないなら完璧に日本へバトンタッチされたんだろうけど、色々そつなくこなせちゃったもんだから、親父も甘えが出てあいつを手放さなかったみたく」
「甘え?」
「あいつ、骨格からして母親似っぽいもん。ケイイチさんって、父親を名前で呼んでたし。あのモロ出しの標準語とちぐはぐする『俺』自称だって、日本に住み着いてから顰蹙買って『わたし』自称を無理矢理ひん曲げたっぽいし。知んないけど」
「……お母さんがわりだったってこと?」
「知んないってばー。んなセンチメンタルなこと抜きに、安心材料として子どものひとりくらい手元に残したかっただけかも。家に帰れば父親としての地位と統制を取り戻せるってシステムは、規律を乱さないためにも重要だろーしー」
急にうだうだと語尾を濁らせて、葦呼は閑話休題とばかり話を戻した。
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