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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「―――はい」

「あ。もしもし、坂田です。こんばんは。麻祈さん」

「こんばんは。お久しぶりです」

「はい。麻祈さん、お元気でしたか?」

「もちろんです。そちらこそ、その後、お身体の調子は如何(いかが)ですか?」

「あ、はい。上野さんは、今も色々と効く薬を試してるみたいです。なにより、ちゃんと治療出来てるっていう安心感が大きいみたいで、最近は余裕もあるみたくて。正雇用にも移れたし、ばりばり働いてくれてるらしくって、営業部長が生き生きしてます」

「そうですか。それは良かった。それで?」

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「とぅぶるりゃーやぁぁぁアアアア!」

「どおおぉぉぉ!? 出会いがしらに何しやがる佐藤!?」

「横隔膜に手刀をめり込ませようと万力チョップで闇打ちをしかけました!」

確かに! 寸分違わず!
 いや待て、なんで!?」

「息を止めさせるためじゃー!」

「なんで!?」

「息の根まで止めろとは言わん! ゆえに凶器は短刀でなく手刀です!」

確かに! スジが通っている!
 ならなおのこと始末が悪いわー! なんで息を止めにゃならんのだ俺!?」

「妙な吹聴を民衆にさせんがためじゃー!」

「みょう?」

貴様いつの間にあたしとディズニーランドでデートしたー!?

「なんだそりゃ!?」

「なぜに発端の発言者が疑問視するかー!?
 『へーえ。タンパクそーな関係しといて、ちゃんとラブラブなカップルらしくディズニーランドとか行ったりするんだー』とか、めちゃくちゃほのぼのとした目線で、なまあったかく見守られたわい! もう連中の頭ン中じゃ、わたしと貴様がネズ耳のカチューシャつけて腕組んでソフトクリーム舐め合いつつ夢の国の中心で愛の国(住人:ふたりのみ)を育む甘々チュッチュ映像が出来上がっとるぞー!」

「ネズ耳?」

「ねずみミミミ!」

「ミが多くね?」

「大は小を兼ねるのじゃー!!」

「そーかなー? 多は少を兼ねない方がいい気がするけどなー。過ぎたるは及ばざるが如しって言うしなー」

「さあ吐けそら吐け! 一体全体、ここ最近、どんな質問になんて答えやがった!?」

「うあちょ、襟首をつかんで振り回されても、逆さにしたピギー・バンクじゃあるまいしコインの1枚も出やしない……えー……あー……
 そうだ。そういや。こないだ、職場の世間話で『最近、休みの日に外出したか?』って風なことを振られたから、珍しくハンバーガー食べたくなって買いに行ったことを―――
 ―――それだ。すまん」

「は!?」

「ちょっと別のことやってて、上の空で『 Mickey-D's 』と答えましたのは俺です。はい」

「みっきーでぃーず?」

「はい。日本で言うマクドナルド、その英語の俗語です」

「……それが、ミッキーだけ印象に残って、ミッキーがいるところに行ったと誤解されたっての?」

「それしかないだろ。でもって、そんなとこに、恋人持ちがひとりでいくはずないから、お前と一緒に行ったってことになっちゃったんじゃねえのか。
 うう。せめて、口を衝いたのが古馴染みの『 Mackey-D's 』なら、聞き間違えられたところでマッキーだから、俺が油性ペン買いに行ったってだけで済んだだろうけどなぁ……」

「そだね。電気屋にサランラップ買いに行った前科もあるしね」

「言うなよ」

「……故意でないってことが分かった以上は、手を離してやるけどさー。責められやしないけどさー。ぶっちゃけ、こんなの、もう勘弁だよー」

「……そんなにか?」

「そだよー。ディズニーランドって、ディープなファンがわんさかいるんだよー。
 何時からどこの遊具に並んで、どんなものを食べて、どのホテルに泊まったのかって。ウルサイにも程があるよー」

「悪かったよ。悪かったって。
 大変だったんだな。受け答え。
 今度、お詫びに、メシでも奢らせてくれ」

「うー。ダシ巻き卵が美味しいとこにしてよねー」

「ああ。期待しといてくれ」

―――これが、初日の顛末でした。


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「紫乃ぉー。ポッキーいらない?」

「え? どうしたの葦呼。急に電話してきて。元気なの?」

「元気だよぅ。元気になったよう。めそめそ。
 じゃなくて。こないだゲームセンター行ったんだけどさー。お菓子が景品のUFOキャッチャーあるじゃん」

「ああ。葦呼が大得意のあれ」

根こそぎ取れちゃって

「どんだけ!?」

「32箱」

「いや、量を尋ねたんじゃないんだけど……」

「売り言葉に買い言葉で、どれだけ取れるか勝負したら、このざまですよ。ポッキーが切れるたび店員を呼び付けて補充させてゴメンなさい。酔っ払ってたあんにゃろうのテンションを盛り上げる成果を出したことを反省しています。酔ってたんです。すいません。もう元気です。めそめそ」

「なら、あんにゃろうな その人と半分こにしたら?」

「それが、そいつ『気色悪くて食べられない』って、山分けを拒否しやがったんだもん。丸々あたしに残されちゃって。
 職場で無料配布するのもアリかなーとは思うんだけど、箱かさばるから、わざわざ持ってくのもさー。
 実家に持って帰ろうもんなら、まぁた同居コールが出るに決まってるし。
 紫乃ん家、家族多いじゃん? 食べてくれないかなぁ」

「それはもう、くれるんなら、ありがたく戴くけど。
 相手の人。食べられない理由が、気色悪くてって……なんで? ゲームの景品だから、賞味期限とかが信用できないってこと?」

「でなくて。名前がポッキーだから」

「ポッキーだから何なの?」

『ニキビあと』とか『男のイチモツ』だから。英語で。Poky 」

「え!? そうなの!?」

「そうならしいよー。向こうじゃ、MIKADO(ミカド)って名前で売られてるんだってさ。
 Pokyを『ニキビあと』って理解しても『チョコ菓子なこれを食べたらニキビ出ちゃうぜ!』って皮肉にしか思えないし、『男のイチモツ』だって理解したらなお食えるかそんなもん! って言われた。フォーマットが英語のジャパニーズは苦労するわー。なんまんだぶナンマンダブ」

「供養する前に助けてあげたら?」

「助けてはあげてるよー。
 休日にマクドナルドに行っただけのことがディズニーランドでデートしたって噂になってたのを教えてあげたり」

「なんでそうなるの!?」

「だぁから、フォーマットが英語のジャパニーズが、フォーマットも何もジャパンなジャパニーズと、薄ら馬鹿に喋るからー。
 もーあいつの話したくない。ぷい。
 とにかく、また今度、届けられそうな時に連絡していい?」

「うん。平日でも、おおよそ日暮れ前後なら、身体あくから」

「よかったー。助かるー。んじゃー、今日はそーいうことでー」

「はいはーい」

―――これが、最終日の顛末でした。

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「社長」

「うん?」

「もしかして、上野さんに、こう言ったんですか? ―――」

 紫乃は、確信をもって“代弁した”。

「今のあなたは、その人に、言うべき言葉があるのを知っているでしょう?」

 ひとつ。ふたつ。呼吸を数えるごとに、みるみると仰天した顔つきを露わにして、社長が喉を鳴らした。

「こりゃ驚いたよ。ご名答とは……いや、一文字違わずではないが。凄いな」

 大きく息をついて、どこか上目遣いで紫乃を覗き込みながら、問いが続く。

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「余地……とは、なんですか?」

 まさか小娘が食いついてくるとは、露とも思っていなかったらしい。社長は驚いたように目を見開いてから、それ以上に目蓋を下ろした。そうして、半眼の裏で叡智を探しながら、

「物事を正当化するための後付けの嘘―――言い訳、それを ねじ込める、破れ目だ」

 結局口にした答えは、彼らしく、のどかに朴訥としていた。

「確かに、正しいことをするのが、いいことをするのとは異なる場合もある。それでも、いけないことはいけないし、悪いことは悪いんだ。そこに理屈をつける余地があると、ああだからこうしたんだと、屁理屈を整える。その回路が整うと、その人は何回同じ状況になっても同じ屁理屈を繰り返す。リピートされるうちに周囲もそれが屁理屈でしかないことに気付いて、言い訳に終始するのを恥ずかしい姿だと思いはするが、大抵は指摘しない。恥をかいているのはその人であって自分でないから、波風を立てずに過ごそうとしてしまうんだ。そして、その人は恥をさらすだけじゃなく、いずれ恥知らずと言われるようになってしまう。指摘しなかった、大勢の恥知らずたちからね」

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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