忍者ブログ

きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。


「社長」

「うん?」

「もしかして、上野さんに、こう言ったんですか? ―――」

 紫乃は、確信をもって“代弁した”。

「今のあなたは、その人に、言うべき言葉があるのを知っているでしょう?」

 ひとつ。ふたつ。呼吸を数えるごとに、みるみると仰天した顔つきを露わにして、社長が喉を鳴らした。

「こりゃ驚いたよ。ご名答とは……いや、一文字違わずではないが。凄いな」

 大きく息をついて、どこか上目遣いで紫乃を覗き込みながら、問いが続く。

.
「どうして分かったんだい? 君のような若い子の知り合いに、わたしのような昔堅気がいるとも思えないのだけれど」

「います」

「ほう。それはそれは」

 そこで社長は、にやりと口の端を上げた。

「イイ男でしょう?」

「はい」

 こけにされるべきオヤジギャグを真っ当に肯定され、肩すかしを食らった社長こそ、スーツの中でちょっとだけ肩をコケさせたのが分かった。

 その日も紫乃は、いつもどおりに働いた。働くだけでなく、仕事を実感し、食事前には空腹を覚え、世間話に共感した。帰ってきた……自分がここにいなかったことを知ることが出来たから、帰って来ることが出来たのだと、取り戻せた日常が身に沁みた。

 昼休みに入ってすぐ、紫乃は麻祈に電話をした。その時は繋がらなかったが、折り返しの電話があった。上野と社長との顛末を話すと、彼は穏便な喜びを見せた。解説にまごつく紫乃をせっつくことのない、見守るには最適だと思える控え目な態度だった―――そう思える。それはもう、最適な。

 それこそが奇妙だと紫乃が気付くのは、しばらく先のことになる。

 だから今はただ、喜び勇んで麻祈に電話をかける日々が始まる。

拍手[0回]

PR

コメント

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

カテゴリー

プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

カレンダー

08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

忍者カウンター