「紫乃ぉー。ポッキーいらない?」
「え? どうしたの葦呼。急に電話してきて。元気なの?」
「元気だよぅ。元気になったよう。めそめそ。
じゃなくて。こないだゲームセンター行ったんだけどさー。お菓子が景品のUFOキャッチャーあるじゃん」
「ああ。葦呼が大得意のあれ」
「
根こそぎ取れちゃって」
「どんだけ!?」
「32箱」
「いや、量を尋ねたんじゃないんだけど……」
「売り言葉に買い言葉で、どれだけ取れるか勝負したら、このざまですよ。ポッキーが切れるたび店員を呼び付けて補充させてゴメンなさい。酔っ払ってたあんにゃろうのテンションを盛り上げる成果を出したことを反省しています。酔ってたんです。すいません。もう元気です。めそめそ」
「なら、あんにゃろうな その人と半分こにしたら?」
「それが、そいつ『気色悪くて食べられない』って、山分けを拒否しやがったんだもん。丸々あたしに残されちゃって。
職場で無料配布するのもアリかなーとは思うんだけど、箱かさばるから、わざわざ持ってくのもさー。
実家に持って帰ろうもんなら、まぁた同居コールが出るに決まってるし。
紫乃ん家、家族多いじゃん? 食べてくれないかなぁ」
「それはもう、くれるんなら、ありがたく戴くけど。
相手の人。食べられない理由が、気色悪くてって……なんで? ゲームの景品だから、賞味期限とかが信用できないってこと?」
「でなくて。名前がポッキーだから」
「ポッキーだから何なの?」
「
『ニキビあと』とか
『男のイチモツ』だから。英語で。Poky 」
「え!? そうなの!?」
「そうならしいよー。向こうじゃ、MIKADO(ミカド)って名前で売られてるんだってさ。
Pokyを『ニキビあと』って理解しても『チョコ菓子なこれを食べたらニキビ出ちゃうぜ!』って皮肉にしか思えないし、『男のイチモツ』だって理解したらなお食えるかそんなもん! って言われた。フォーマットが英語のジャパニーズは苦労するわー。なんまんだぶナンマンダブ」
「供養する前に助けてあげたら?」
「助けてはあげてるよー。
休日にマクドナルドに行っただけのことが
ディズニーランドでデートしたって噂になってたのを教えてあげたり」
「なんでそうなるの!?」
「だぁから、フォーマットが英語のジャパニーズが、フォーマットも何もジャパンなジャパニーズと、薄ら馬鹿に喋るからー。
もーあいつの話したくない。ぷい。
とにかく、また今度、届けられそうな時に連絡していい?」
「うん。平日でも、おおよそ日暮れ前後なら、身体あくから」
「よかったー。助かるー。んじゃー、今日はそーいうことでー」
「はいはーい」
―――これが、最終日の顛末でした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【はみだしDNDDコラム】
日本ではフツーに売られていても、海外では発禁語句になってしまい、別名にすげ変わっているブツはポッキーだけではありません。飲み物から車の名前まで、そりゃもう幅広く存在しています。あっちでは普通の意味でも、日本に来たら噴き出すような言葉もたくさんありますね。
特に一大事なのは、人名。あっちの発音ではタブーに近い単語が、日本人としての名前なら違和感がない……これは、とても由々しきことです。呼ばなきゃならないモノが下品となると……
今ぱっと考えて思い浮かんだヤベェ名前は、「明日帆(あすほ)」「明日雄(あすお)」でしょうか……この発音、
「 arsehole (ケツの穴)」に近すぎです。「 arsehole 」は、「あの野郎はケツの穴みたいな最悪のクソだ」って感じの、ボロクソな言い回しに出てくる単語ですからね( arse は地域によって ass になったりしますけど)。
まあ、そんなこんなで。次回、初日の顛末に続きますよ。
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