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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「だろね」

 一部始終を聞き終えた葦呼がしたのは、感嘆符さえない得心だった。

(まあ、そうじゃなかった時も思い当たらないけどね……)

 とまあ、葦呼に対する紫乃の反応も、いつもと五十歩百歩と言われればぐうの音も出ないのだけれど。

 携帯電話を持ち直して、紫乃は髪をかき上げた。もう目に入るまで伸びた前髪が気掛かりではあるものの、どうしても美容院に行く気になれないまま今日まで来てしまった。原因は分かっている。あの日まで、一刻も早く伸びてほしいと願っていたからだ―――憧れるだけだったヘア・アレンジをして、あの日は出掛けたかった。特別にする要素を、ひとつでも増やしたかったから。

 自宅、自室、ベッドの上。紫乃は掛け布団の上で腹這いになったまま、こっそりため息をついた。口の中に篭もっていた生温い体温を嗅いで、ものすごく嫌になる。初秋の気配が、心地よい涼しさに取って代わるのは、もう少し先だ……念のため長袖に衣替えしてしまったパジャマは、やはりまだ鬱陶しくて肘まで折り上げてしまっていた。

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.    道路の路肩に錆びた標柱を突っ立てただけのバス停留所に到着してから、徒歩もだんまりも終わった。話題を出してくれたのはバスが到着するまでの坂田なりの気遣いだったのだろうが、余計なことを喋る都度、気が滅入る。受け取る余裕が懐に無いことを謝罪するしかなかった。

 バスが到着すると、そのどれもが終わった。

 帰宅する。いつものようにひとりで、ただし今は古傷を疼かせながら。

 そして今日のそれは、足の付け根や上半身の痛痒ではなかった。

 過去からの声音に、鼓膜を炙られていた。

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「俺のことは、別に構わなくていいですから。それより坂田さん、怪我とかしませんでした?」

「し、てません」

「ならよかった」

 ほっと吐きかけた呼気が、喉に詰まる。坂田が、今も息を呑んだままだったから。

 ただただ平身低頭するしかない。

「すみません。すみませんでした。ほんと。おっかしいなぁホント。見当識障害? たったの焼酎一杯で酔いどれ幻視(Pink elephants)がお出ましなんて、いっくら疲れてるにしても、俺のくせして、どうしてしまったんだか。トシですかねぇ。はは。あはは」

 やっとこさ、ぎくしゃくと坂田が口まわりを引き攣らせた。道化を憐れんでくれたように思えた。

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.   たまらず、そのまま夜道を歩き出す。

 軽い足音が、ついてきた。

「……麻祈さん、親指のそこ、汚れて―――」

 そうして、麻祈に触れてきたのは、声だけではなかった。

 後ろから。指が。たくさん。この素手に。

 “このあとのことを知っている”。

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,   見るだに、坂田が慌て出す。巣穴から出たプレーリードックを思わせる様子で、ぴんとした背に自らせっつかれたように目をしばたいていた。なにより、野生動物のように瞳が正直だ。割り感がどうかしたのかと、魂胆から窺っている。だけ。

 だからこそ苛立ちが加速する。

「俺が出して当然だとは思わなかったんですか?」

「思いませんよ! そんな!」

 坂田は声を跳ねさせて、実際につま先でも伸びあがってみせた。

「わたしは麻祈さんと食事を楽しみに来たんです。麻祈さんに食事を奢ってもらいに来たわけじゃありません」

 言ってくる。まるで、佐藤のようなことを。佐藤でもないくせして。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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