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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「前に、助けてもらったから」

「前って。合コンの時?」

「それもあるけど。それのあとでも。葦呼に電話が繋がらなかった時に、代わりに助けてくれたの」

「ふぅん。てことは、急患にでも遭遇したんだ。しかも、救急車を呼ぶべきか一見して分かんないってやつ。よくやったねぇ大変だったっしょ? 救急手順なんて、思い出すことすら。……もしかして、学校の講習会の時以来じゃない? そんなのに接するの」

「そうだね。そうだったかもね」

.

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. 葦呼は紫乃よりひと回りミニマムな体躯をしているのだが、紫乃より食べるくらいだから、母も食べさせ甲斐があるのだろう。車で紫乃を迎えに来た葦呼と喋る母の声は、先の手土産もあってか、一段と燃えていた。父も姉もこういった騒ぎは大歓迎しているので、今夜は盛り上がるだろう。茫漠と、そんなことを考える。

「んで。持ってきたその袋が、要件の大元?」

 問いかけに、はっとして。

 返事をしようとしてから、口の中で噛んでいるパンとハムを思い出す。

 咀嚼を無事に終えてから、紫乃は口を開いた。テーブルの端に置いていた紙袋を、葦呼の方へと少し押し出してから、

「うん。そう。これ、麻祈さんに渡してほしくて」

「アサキングに?」

.

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. 日曜日のカフェテラスの午後にふさわしい条件は揃っていた。出窓からテーブルを浸してくる陽光は温み、店内へと満ち満ちたそれは人気と料理の芳香を吸って一段と暖かで、談笑する客人の腰を目蓋ともろとも重くさせる。観葉植物の葉は造花でなく生きている。甘やかな春の光を受けて、殊更にやわらかそうな緑色をしていた。

「メニューとアクロバットした普通さだよねぇ。この内装」

 テーブルを挟んで向こうの椅子に腰かけた葦呼が、そんなことを言ってくる。彼女の手元には、ティーカップに満たされた茶とベーグルサンドがあった。特に変哲ない食事だと思えたが、まあ彼女がそう評する以上は、そうなのだろう。そんな自分の前にも似たような昼食があったのだが、なにを注文したのか覚えていなかった。葦呼と同じものをと依頼したせいだろう。ということは、似たような食事でなく、同じ食事ということになる。忘れていた。どうでもいいが。

 テーブルの机板は一枚ガラスだったので、籐編み細工の椅子を軋らせながらブランコさせている葦呼の足先が見えた。ぷらりひょんといった感じで好き勝手にしている若草色のシューズを眺めながら、紫乃は口を開いた。

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. ひとり、電気を消した部屋のベッドの上。紫乃は、机の上の紙袋へと視線を触れさせた。その一方で、片手にて携帯電話の画面に電話帳を展開させる―――五十音順の冒頭、そこに彼がいた。麻祈が。

 見なかった振りをして電話帳をサ行に移し、佐藤葦呼に発信した。あっさり繋がった。これでもう、葦呼に話すしかなくなってしまった。ほらね、神様だって分かってるのだ……こんな自分のことなんか。

 暗闇の中で、紫乃は声を出した。

.

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. 見つけ出した焼酎のコーナーで、自分の身長の倍はあろう商品棚を見上げる。

(地震になろうものなら、圧死か溺死か、急性アル中で死んじゃうね)

 他人事のように思いながら、視線を横滑りさせていく。どうやら下にある一升瓶や紙パックはリーズナブルな品で、上段へ移るほど限定品となっているようだ。価格もそうだが、瓶の凝り具合からして、一見して違う。フラスコじみた形状をしていたものから、どしんとした瀬戸物造りをしたものまで。色合いも様々だ。紫色、乳白色―――

 そして紫乃は、それに見とれた。

(きれい……)

 青天の色の硝子瓶だった。

.

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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