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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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. 気後れしないでもない。中まで見通せないことなど分かっていながらも、扉中央にあるドアスコープを覗き込んでみる。分かってはいたが、なにも見えない。

(ていうか、これで向こう側から見られてたら、わたし今ほんと怪しさ満点じゃん。正真正銘の不審者じゃあるまいし、さっさとインターホンを押せばいいんだから。それで、社長に報告すれば済むんだから。よし)

 きゅっと拳を固めて数秒。そこから立てた人指し指で、紫乃は呼び鈴ボタンを押した。

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. 到着して、寮の正面にある駐車場に車を停める。関係者以外そうすれば罰金なので―――大家がいない今は見咎められることはほぼ在り得ないとしても―――、用心して、会社から支給されている駐車許可証明書をダッシュボードの上に整えた。ここの駐車場用の許可証ではないが、少なくとも関係者だということは、これで明示できる。ほどよく夕焼けに焼かれたダッシュボードが、指の腹に温かかった。

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. そして、今の人材派遣会社の面接を受けて、合格した。正社員は紫乃を含めて十人にも満たない中小企業だが、ボーナスもあるし、給金は年齢に応じた昇給制で、交通費も支給対象。なにより、アットホームな社風が好ましかった。お茶を出せは必ずありがとうと返ってくるし、難しい顔で考え込んでいたら体調を気遣われるし、社用のカレンダーなのに社員の誕生日には該当者の似顔絵が描いてある……絵手紙が趣味の会長の茶目っ気だ。お昼時にはお弁当を持ち寄って、一台きりしかない時代遅れの分厚いテレビを囲み、連続テレビ小説をチェック。家族経営というのも頷けよう。まあ、おかげで年齢層が壮年以上でかたまっている管理職一家はパソコン処理がとんと苦手で紫乃に丸投げだし、夫婦喧嘩なんかもまるまる社内まで持ち越されて冷戦の火蓋が切って落とされることなんかもあったりするのだが、それだってまるく収まれば、団欒の足しになる逸話にまた一輪の花が添えられるだけだ。

 紫乃は、ほどほどにこの会社が好きだった。上野はどうだったろうか?

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. 紫乃が今の人材派遣会社に正社員として雇用されたのは、短期大学を卒業後、数年してからのことだ。

 短大にてパソコンソフトを使った情報処理の資格をふたつばかり獲得してはいたものの、その免状と短期大学修業証書だけで就職できるような花道などバブル景気並みに太古の昔と成り果てたこのご時勢、ハローワークを通じて職を探すしかなかった。昼間なのに、役所にずらりと並んだコンピューターの画面だけが明るくて、まるでその光の泉の託宣へとすがるかようにブラウザを覗き込む痩せこけた老人のうなじや乳飲み子を抱えた熟女の肝斑を見るにつれ、真っ先に解雇されない身分で採用されなければと固唾を呑んだ。自分は独身なのだ。自分は若いのだ。それを売ることができるうちに、正社員にならなければ。

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(友達と……ってことは、サークル仲間の男と組んで、サークル代表で買いに出たのか? ってことはヘタな手打ったら、もれなく全部この人が悪いってことになるのかよ。それは困るよなぁ。溺れてるんだから、こんな藁にも縋りたくなるよなぁ)

 医大時代の記憶が、頭をよぎる。

 麻祈は、銜えたままのスプーンをぴこぴこさせた。そうさせたところで、物思いは散ってくれなかった。スプーンの梃子の動きと物思いになんの因果関係も無いことが証明された。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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