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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「……会計をと、お願いしたはずですが」

「したんです、けど」

「した? どうして俺がサインしに行きもしないで、カード決済が済むんです?」

 馬鹿げた言い分に、正論を突き込む。

 麻祈の財布を両手で胸元に握りしめて、坂田は躊躇いながらもこちらにやってきた。無駄に肩掛け鞄をさすったりしながら、もじもじと打ち明け始める。

「あの。すいません。カードじゃなくて、勝手に……この中の、五千円で」

「は?」

「ごめんなさい。でもあの、篠葉さんが、なんだかカードの機械もおかしいからって言うし。わたし、人様のそういうの、扱ったことがなくて、こわくて。篠葉さんに任せてたら、こうするのが一番だって、麻祈さんの財布を拝借して、会計を済ませてくれたものですから……あの、これ、おつりです。小銭入れ、このお財布と別ですよね? 使った感じなかったので」

 麻祈の財布を持った手を胸倉から下ろすと、その下から、もう片手の握りこぶしが出てきた。どうやら後者には、釣銭を保持しているらしい。

 疑念はますます深まるしかない。カード決済で釣は出ない。のみならず、算数からしておかしかった。呻く。

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「君も次は、快気祝いで来れたらいいね」

「だね。ねえ、兄ちゃんの国じゃ、誕生日の時どうすんの?」

「もちろん、今日の君を祝う。最っ高(Cheerio!)、誕生日おめでとう(Happy birthday!)!」

「わー。ハッピーバースデーって、やっぱり日本じゃなくてもハッピーバースデーなんだ」

「何度でも今日のこの日を(Many happy returns!)! ―――なんてのもアリだけどね」

 そこで麻祈は、母親と目配せを交わした。恐らくはこの親子連れが、例の隣席の予約客なのだろう。長引かせる必要はないし、麻祈も坂田を待たせておけない。気になって、つい店の玄関を振り返る。

 坂田が立っていた。

(―――は?)

 豆鉄砲を食らった鳩と化して、坂田と見詰め合う。

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「すいませんでした。わたしは背が低いので、トランクからの出し入れだけは本当に手を焼くんです。助かりました」

「とんでもない。大事(おおごと)ですからね。一時的な負傷となると、車を買い替えるなんてことも出来ませんし、福祉車両をレンタルするのも、なかなか。しかも、こういった日本の車椅子用駐車スペースは、サイドに余裕があっても、バックまではね……」

 麻祈が閉めた助手席のドアを、母親が施錠する間に、改めて乃介蔵の駐車場を見やる。これが、店舗の裏口に窓が付いている理由だった。篠葉も理解はしているのだ。己の店舗の弱点を。

 身体障害者用の駐車場は、単に店に出入りしやすいように店舗から最短距離にあるだけでない。車椅子から乗用車に安全に出入りできるよう、ドアを最大角まで開口可能なだけの空間を確保してある。ただ、そういった両サイドの余裕で負担が軽減されるのは助手席-地面間だけで、トランクルーム(Car-boot)からの車椅子の出し入れスペースまでとなると埒外となりがちだ。

「―――かといって、頭から突っ込んで駐車するとなると、こうやって目の前が道路の場合、いつ他の車が行き交うか分かったものじゃない。車椅子を取り出すのに、もっと冷や冷やする」

「本当に」

 色々と思うところがあるらしく、しみじみと母親が続けた。

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.   少年は、それはそれは可愛げなく仏頂面をもじもじさせつつ挨拶を返してくるが、その両足に包帯とギプスというオプションが付いている以上、慮れる態度ではあった。女性を見ると、親子らしい似通った形をした眉を、息子と似ても似つかない角度にしょぼつかせている。恩人にそっけなくする不作法に、心を揉んでいるようだ。

 それを解くため、女性に話しかける。

「靭帯でもやりましたか?」

「ええまあ、他にも。学校のクラブで。ちょっと。転び方が悪くて」

「俺じゃなくて、先に倒れてた奴が悪いんだろ……」

 むくれ声でボーイソプラノをすり減らして、少年が呻く。ぶつくさと。言い訳するように。
それはお門違いというものだ。冗談紛れに、麻祈はそれを保障した。

「そうとも。悪いのは君じゃない。もちろん、先に倒れていた奴でもない。運だ」

 だろ? と目つきで問いかける。

    すると少年は、にやついた。はにかんだようにも思えた。

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「無理しないで。俺が手を貸しましょう」

「あ、……す、すいません」

 ふってわいた助力に女性がおたついた隙に、麻祈は彼女と並んで車椅子の出っ張りを掴んだ。そして、

「とんでもない」

 と応答し返す頃には、地面まで車椅子を運び出している。一般的な成人男性の膂力を以ってすればこのくらい扱えて当然だと分かってはいるものの、それでも麻祈は安堵した。こんな時にぎっくり腰でオチをつけるおたんこなすは、ギャグのフィクションからシリアスなノンフィクションまで無数に存在するものだ。

 車椅子に手をかけたまま、わきの女性を顧みる。

「あの。どこにセットしたらいいのか、教えて戴けますか?」

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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