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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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. ふと、麻祈が唇に隙間を開かせた。歯の白ささえ影に隠れるほどの僅かな間隙から、声が聞こえてくる。

「彼女には、いつもお世話になっています」

「いえこちらこそ。じゃなくて、あたしこそお世話になってて。彼女には。あれ?」

 そんなつもりなく、煙に巻くような応答をしてしまうが、彼はやんわりと笑んでくるだけだった。慣れている。

 それを察した紫乃は、彼は決して寡黙でも口下手でもないことまでも、察するしかなかった―――彼は、必要とあらば、多弁にだって多動にだってなれるだけだ。どうするのが最適なのか敏く演算し、演算結果を現出させるためのマインドコントロールに卓越し、それに基づいた自己プロデュースにセンスがある。それだけだ。だからこそ……

(麻祈さんは、ただ陣内さんと合コンにいるだけのために、こうやって“ああしていた”んだ)

.

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「あ」

 麻祈が、声を上げた。まるでそれが動作の代金だったかのように、ふっつりと歩みを断つ。

 こんな自分の所作が、なにか悪い方にでも働いたのだろうか? 心底それを疑るでもないが、それでも怖じ気づいた紫乃は、慌てふためきながら麻祈の真横に戻った。彼はなにやら、小道から大通りに出るきわのところで、目を丸くしている。それを、尋ねるしかない。

「え? ど、どうしたんです?」

「坂田紫乃さん」

 いきなりフルネームで呼ばれた。

 それよりも―――

.

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「―――はい。すいません」

「なら、行きますか」

 見ていやしなかった筈なのに。返事があった。

 顔を上げる。麻祈と目が合った。

 彼は、紫乃を見つけてくれていた。今この時さえも。

 言うしかない。

「あ、ありがとうございます!」

 彼はそれを、女性が同行者を得た安心ゆえの凡庸な謝辞と捉えたらしい。こちらこそ、とだけ口にして、やんわりと歩き出す。紫乃も、それに倣った。

.

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「あの」

 と声を上げ、麻祈が立ち止まっていた。

 のみならず、顔を振り向かせていた。だけでなく、話しかけてきていた。距離を置いて、真後ろにいた紫乃へと。あろうことか、向き直った。

「帰り。どうなさるんですか? 僭越かと思いますが」

 紫乃は、その場に立ち尽くした。

.

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(お医者さんなら、きっとこんなゴチャゴチャなとこじゃなくて、イイとこに住んでる筈だもん。だったら、きっと大通りまで出てくれる。そこまで行けたら、わたしだけで、駅までの道くらい分かる。だから、それまでついていかせてください! こっそりしてますから! ごめんなさい!)

 ひたすらに、ただひたすらに平身低頭しながら、麻祈の踵を追う。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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