. ふと、麻祈が唇に隙間を開かせた。歯の白ささえ影に隠れるほどの僅かな間隙から、声が聞こえてくる。
「彼女には、いつもお世話になっています」
「いえこちらこそ。じゃなくて、あたしこそお世話になってて。彼女には。あれ?」
そんなつもりなく、煙に巻くような応答をしてしまうが、彼はやんわりと笑んでくるだけだった。慣れている。
それを察した紫乃は、彼は決して寡黙でも口下手でもないことまでも、察するしかなかった―――彼は、必要とあらば、多弁にだって多動にだってなれるだけだ。どうするのが最適なのか敏く演算し、演算結果を現出させるためのマインドコントロールに卓越し、それに基づいた自己プロデュースにセンスがある。それだけだ。だからこそ……
(麻祈さんは、ただ陣内さんと合コンにいるだけのために、こうやって“ああしていた”んだ)
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