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きみを はかる じょうぎは ぼくに そぐわない

 本作品は書下ろしです。また、この作品はフィクションであり、実在する個人・地名・事件・団体等とは一切関係ありません。


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「ありがとうございます。そう誘って下さるご好意だけ、ありがたく受け取らせて戴きます」

「すいません」

 との唐突な声の方を向けば、これまた例の、はぐれ日本人旅行者だった。外套の中で肩身も狭そうに片手を上げ、言ってくる。

「ごめんなさい。わたしも、これで」

「そっすか。残念」

 肩を竦める気楽さにせりふがただの儀礼でしかないと代弁させている陣内に、それでもその女性は謝罪を重ねた―――のだが、途中で彼が二次会メンバーへと振り返ってしまったので、その小声さえ、半ばで折れてしまう。それでも彼女は、なお続けようとした……と見えたが、

.

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. 正義とは平等と公平である。

 それは大昔に手に取った、日本の看護学生用教本で目にした記述だ。

 なら時空と物理法則が正義か。その時、麻祈はそう思った。

 こんな時にも、それを思い出す。滞りなくテーブル会計を済ませていくスタッフに感謝しつつ、自分は自分で役割を果たすしかない時だ。これを終わらせれば時は過ぎると念じながら、言われるがまま金を払い、乞われるまま携帯電話を操作した。なにをどうやったのか詳しく覚えていない。必要なら陣内とショートコントだってやったろう。さっさと手を切りたかった。一刻も早くそうできるなら、なんだってやっただけだ。

 真っ先に席を立ち、椅子の背から引き抜いたジャケットに袖を通す。

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「あわわ―――
 って。およ?」

「っと(Whoops)
 ―――って、佐藤じゃん。よっす。お疲れ」

「お疲れー。
 なに? あんたも今日、昼は買い食い? んまいのあった?」

「あったかも知れんけど探してない」

「およ? じゃあなにを目安に、その高菜おにぎりと梅しそ野菜サラダを選んだわけ?」

「大きさと油脂量。腹八分目で胃もたれしない。
 食えりゃなんでもいい時は、購買のこれで充分」

「食える嫌いなアサキングらしいねー」

「? 食える嫌い? 食わず嫌いじゃなくて?」

「そ。嫌いだけど食えるって食べ物が多い奴だねってこと。
 あんたのことだから、逆に、食わず嫌いなモノなんてないんじゃないの?」

「あるぞ」

「あんの? なに?」

「ぽか○すえっと」

「へー。どこが嫌う要素?」

「むしろ嫌う要素なく受け入れてる連中が幸せだと思うぞ」

「と言いますと?」

「○かりすえっと。英語舌できちんと言うなら、P○cari sweat. 直訳すると『ポカリさん汗ばむ』だぞ。
 いや、商品として考えるなら名詞だから『ポカリさんの汗』だ。ンなもん飲めるか。断固として断る。
 さらには、訊いたところ、薄甘い味らしいじゃないか。汗なのに甘いとか。もうポカリさんは人ですらない。異生物の汗を飲むとか、無理。絶対無理」

「ああ、まー和製英語に近い事故だよねぇ」

「これだから日本で『スプラッタ映画って見てらんねえよなぁ』って話振られて『え? 見てるだけで楽しいでしょう? splatterなんて』って答えちゃってドン引きされるんだよ俺が! 俺の頭ン中では、水を跳ね散らかして遊びまくるワンダフルムービーってイメージしかなかったんだよsplatter映画って言われたらよ! どうして血煙限定なんだよ日本の splatter は! そしてなんで splash は水限定!? 英語使うんなら英語として使ってくれよ! めんどくせーなもう!」

「両方とも分かっちゃうあんたが器用貧乏なんだってー。
 にしても、食わず嫌いなものあったんだ。へー」

「……そー言うお前はどーなんだよ?」

「あるよ。生卵の白身」

「ふぅん? どこらへんが駄目なんだ?」

「だってあれ鼻水じゃんか。
 見た目も感触も鼻水じゃん。含有量が違うけど、蛋白質なとこも鼻水じゃん。
 それ食べるとかヤダい。絶対ヤダい」

「……うへぇ( O yuck, )……たった今から俺までも嫌になっちまったっつーの……」

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「そっちこそ、そーやってイチイチ台無しにしてくれんのってマナー違反なんすけど。マジ空気読めよ。あっちじゃどうだか知りませんけど、アンタこっちに来て何年なわけ?」

 何年だろう。何年だったろうか?

 売り言葉の買い言葉に、真面目に答える気もなかったが。

 それでも意識すれば、年月はあっさりと暗算できた。四捨五入して十年。自分でも、もうそろそろ習得していてもいいんじゃないかと思えた―――和、と称される日本の妙技を。

 それは才覚でなく技術だ。協調性だけでなくテクニックを要する。それは分かっていた。はずだが。

 顧みる。

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「首席って、大学を一番の成績で卒業したってこと? すご。そんな頭イイのに天然なんて、超かわいー!」

「でしょー。この先生の同僚が俺の馴染みでさ、」

 ふと、麻祈の目前のテーブルを、陣内の掌が横切るように這った。そのまま、コールボタンのわきに詰まれた灰皿へと伸びていく―――

「話聞いてると面白いのなんのって―――」

「吸う時は、」

 告げると同時。

 麻祈は、持っていたビールグラスを、とん・と目の前の陣内の手首に下ろした。

 しん、とサラウンドが消失する。どころか、そこにいる各々の仕草までもが立ち消えした。

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プロフィール

HN:
DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)
年齢:
17
性別:
非公開
誕生日:
2007/09/09
職業:
自分のHP内に棲息すること
趣味:
つくりもの
自己紹介:
 自分ン家で好きなことやるのもマンネリですから、お外のお宅をお借りしてブログ小説をやっちゃいましょう(お外に出てもインドア派)。

 ※誕生日は、DNDDとして自分が本格的に稼働し始めた日って意味ですので、あしからず。

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