「ありがとうございます。そう誘って下さるご好意だけ、ありがたく受け取らせて戴きます」
「すいません」
との唐突な声の方を向けば、これまた例の、はぐれ日本人旅行者だった。外套の中で肩身も狭そうに片手を上げ、言ってくる。
「ごめんなさい。わたしも、これで」
「そっすか。残念」
肩を竦める気楽さにせりふがただの儀礼でしかないと代弁させている陣内に、それでもその女性は謝罪を重ねた―――のだが、途中で彼が二次会メンバーへと振り返ってしまったので、その小声さえ、半ばで折れてしまう。それでも彼女は、なお続けようとした……と見えたが、
.
「じゃー脱落者は置いといて。残りの皆さんで夜の街へゴー!」
「ゴーう!」
拳を振り上げる陣内も、それに同調するその他大勢も、それに気付かない。
麻祈は陣内ではない。その他大勢のどれでもない。ならば放置できない。数歩を歩いて、その女性のわきで立ち止まる。
「いいでしょう。もう」
「え?」
「『スイマセン』」
「あ」
はっとこちらを見上げ呻いていた彼女だが、突如として、なにやら恥じ入ったように顔を伏せた。失敗したところを目撃されていたと知れば、当然の反応なのだろうが―――
それより麻祈にとって切実だったのは、腹の前に提げた鞄の持ち手を両手の親指を使ってさする彼女の仕草が、このまま延々と続きそうだったことだ。
(うわ。めんどくさ)
それは目途がない。ならば、いつまで続くか分からない。だとしたらずっと繰り返すうち、また彼女はぽつんと置いてきぼりにされるのだろう。この連中から。自分が見捨てていけば。
声をかけるしかない。
「ひとりで行くのが気まずいなら、俺と一緒に出ますか?」
「は、はい。お願いします」
「では、行きましょう」
麻祈は歩き出した。今度こそ、レストランの外へと。
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