. 身体はいつしか、意識しないまま、ひしめく店屋街を養う毛細血管のような細道から、駅につながる大通りへと脱出していた。実際その場から、駅そのものの姿も視認出来る。マジックのように現れた建築物に、思い違いかと危ぶむが、見どころも無いのになにをライトアップしたいのか分からずじまいの光量の大盤振る舞いを、見間違えるはずもない。確かに駅だ。
例の女性は、麻祈より一歩先へと踏みつけた地面からバウンドするような感じでたたらを踏んで、再びこちらの横並びへと戻ってきた。やはりというか、焦ったような調子で問うてくる。
「え? ど、どうしたんです?」
「サカタシノさん―――」
それを確信していた。としても。
びくっと肩を跳ねさせられると、さすがに疑わしくもなる。麻祈は首を傾けた。
.
「―――ですよね。違いますか?」
「い、いえ滅相もない! サカタです! はい」
微妙にトンチキな文語で肯定し、鞄を持った手をわたわたと振ってくる彼女。
その姿は確かに、記憶の中の佐藤と並べても、さほど意外な取り合わせではない。いや、ほっぺたにナルト(まるっこいタテガミつき)を描かれたチビスケに、意外な取り合わせなど無いだけか? ためしにクロコダイルの口の中にそっと頭からツッコんでみるが、やはり似合う。天性として似合う。
そのまま人喰いワニに齧(かじ)られていく佐藤に妄想の中で合掌しながら、麻祈は一応、念を入れた。
「佐藤葦呼の友人の?」
「はい。ええ。そうです。はい」
「ああ。これはこれは。なんと言うか―――すいませんでした。佐藤から事前にあなたのことを聞いていたのに、今の今まで失念していて」
片耳の上の毛を掻きながら、頭を下げる。それを上げると、なぜだか彼女―――サカタシノ、はそうだがミョウジは(SAKATASHINO, Her surname is )―――坂田も、ごにょごにょ口ごもりながら、こちらに辞儀を繰り返していた。坂田なのだから佐藤らしくなくて当然なのだが、それにしても腰が低い。
そして、どちらともなく駅へと歩き出す。
間に合わせに、麻祈は口を開いた。
[0回]
PR