. パンダの帰還を願うということは、二次会はさほど盛り上がっていないのだろう。これからのこのこ顔を出すつもりは毛頭なかったが、わざわざこれだけの文字数―――無論ラインダンスを繰り返している眩いメンバー込みの話だ―――を打って報告してくれた労を労うくらいの人情は持ち合わせている。麻祈は返信画面を開いた。患者にレクチャーするのと同じように、対象の能力に合致した応答を導く。まではよかったのだが。
(ええと。どこ押したら出るんだ。このドットアニメ)
携帯電話のどのボタンを押しても、うねうねする絵が一向に出てこない。絵文字はあったのだが動きが違うし、顔文字はそもそも白黒だから色素からして的外れだ。
数分格闘したが、麻祈は結局、自力での解決を断念することにした。送信メールを保存して、例の受信メールから色とりどりのものをコピーし、自分のメールへ転写する。それを勘で全体にまぶして、なんとなくバランスを整えてから送信した。
歩き出す。のだが。
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(……またメール受信?)
ポケットからの鳴動に、さすがに訝しむ。イベントが絡む季節であれば、大学時代に在籍していたサークルから活動への誘い文句や事後報告がひっきりなしに一斉自動配信されてくるのは恒例だが、そんな時期でもなければ麻祈の携帯電話のメールボックスは閑古鳥の巣窟である。ウェブのどこかにアドレス登録したこともないので広告メールすら送られてこず、一週間以上微動だにしないのもざらだ。
激突するような障害物が行く先に見当たらないかを確かめてから、麻祈は歩きながら携帯電話を操作した。すると、またしても先にメールをくれた彼女―――女性だろう、まず間違いなく―――からの返信である。
「はや(Nippy.)」
思わず、口を衝く。なんの火急の件かと思うが、どこをどう読んでも轍鮒の急は見えてこない。
わけが分からないまま、麻祈は相手と似たり寄ったりな中身のメールを返した。即座に送り返されてくる。立て続けに、またひとつ。
アパート三階の自宅に到着する頃、携帯電話の見開き画面の送受信履歴は、すべてゆっきーなに塗り替えられていた。
家に入って施錠し、電灯を点け、スリッパに履き替え、靴を下駄箱にしまい、換気に窓を開け、手と顔を洗い、部屋着に着替え、ポケットを確かめた洗濯物を洗濯機に投げ込み、思いついて濡れタオルで髪を拭いてみて―――臭いは取れなかったが自己満足は得られた―――、歯を磨き、窓を閉め、照明を落としてベッドに入る頃には、携帯電話の見開きどころか受信ボックスの大半がゆっきーなに攻略されていた。
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