. どことなく麻祈が気に掛かるまま、時間が潰れていく。
あれから彼が、態度を変えたと言うことはない。やはり特に自分から喋ることなく、だからといって誰の話に熱心に聞き入るでもなく、そういった誰かの行為に興味を示す風すらなかった。かといって、さっさとオサラバしたいのかと女子のひとりが冗談混じりに勘繰ったりすると、ふんわりと柔和に口許を綻(ほころ)ばせる。さり気無い仕草で彼女がそれ以上の好奇心を誘っても、彼は、ただそれだけだった。
そして、麻祈を見ていた紫乃こそ、もうその場に乗るに乗れなくなってしまっていた。
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(どうして、あなたみたいな人が、そんなにもこちら側に阿(おもね)っているんですか?)
紫乃には、まるで疑問だった。
(頭が良くて見栄えがして、その能力を裏付ける人生を送ってきているのに。主役を張れるのなら、陣内さんに引っ立てられるまでもなく、主役になっていればいいのに。どうしてわたしなんかみたいに、そんなにも周囲を窺ってるんですか?)
自分ばかり、麻祈への興味が募っていく。それを彼自身に示すことなんて思ってもみなかったけれど、隣席の女性が麻祈への質問―――血液型・好物・最近面白かったこと―――を如才なく重ねていくにつれ、そんなことすら出来ない自分自身への情けなさが鬱積していった。彼が、相手の女性以上にイージーなフレンドリーさで返事―――何型って打ち明けても疑われちゃって・米焼酎が好きです・あはは、コンビニ唐揚げにそんなにヴァリエーションがあるなんて今あなたに教えてもらったことでしょうか―――をしていたのだから、尚更だ。そうできる彼女に嫉妬できるほど、自分はおこがましくはない……ただ、おこがましくなれる自信が無い自分が、みじめだった。
誤魔化すように、太腿の上の鞄の中で、携帯電話を手に取る。画面に表示された時刻は、手慰みのまま事細かに確認を入れていた通り、合コンのタイムリミット間際だ……矢先、とろんと目線が滑って、酩酊に憑依されそうになっているのを実感する。奥歯で頬の内側を噛みながらどうにか視軸を整え、紫乃は姉へと迎えを乞うメールを送った。その携帯画面の電話帳、漱(すすぎ)―――姉の名だ―――の真上に、佐藤葦呼と氏名が載っている。
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