「首席って、大学を一番の成績で卒業したってこと? すご。そんな頭イイのに天然なんて、超かわいー!」
「でしょー。この先生の同僚が俺の馴染みでさ、」
ふと、麻祈の目前のテーブルを、陣内の掌が横切るように這った。そのまま、コールボタンのわきに詰まれた灰皿へと伸びていく―――
「話聞いてると面白いのなんのって―――」
「吸う時は、」
告げると同時。
麻祈は、持っていたビールグラスを、とん・と目の前の陣内の手首に下ろした。
しん、とサラウンドが消失する。どころか、そこにいる各々の仕草までもが立ち消えした。
.
それは陣内とて同じだったが、動けない理由はもっと切実だった。グラスのふちは麻祈が指で吊っているものの、それはあくまでバランスを取っているだけだということを、皮膚から浸透してくる重みで悟ったのだろう。動けば倒れる。落ちて割れるかもしれない。
麻祈は、彼へ言うべき残りを口にした。彼と同席するのは、これで四回目。仏の顔は三度までだったから。
「同席者へ、ひと言断るべきでしょう」
言いたいことはそれだけだった。のだが。
そうだったのこそ麻祈だけだった。真横にある陣内の顔は、その気になれば結膜の毛細血管の走行まで鑑定できるほど近距離にあるというわけでもないが、その眼中に吹きだまる熱を単なる体温と勘違いできるほど遠距離でもない。単なる体温? 阿呆か。体温とは、体内に留まる熱のことだ―――だから、こうして外まで発されて余りある熱は、免疫反応と言うべきだ。外敵を駆除するための。
陣内が、音程低く、侮蔑を吐いた。
[0回]
PR