. 某日職場。よーアサキングぅ元気ぃヒマしてるぅって前置きすんのもアホくさいからついでに建前も抜いちゃうけど医者がいると女性陣がランクアップするから今度の合コンに例の彼レンタルさせてくんないって拝み倒されてしまいましたので生贄をお願い出来ませんでしょうかキング。と、ひと息に読経した上、椅子に腰かけたまま目からウロコを落とすだけの麻祈の肩まで揉もうと背後に回りすらした佐藤の境遇に同情せざるを得ず、懇願を承諾した。これで四回目だ。陣内と顔を合わせるのも同回数である。陣内の連れてくる男の顔触れは毎回違うが、麻祈とは毛色が違うという本質は同じだ。社交辞令以外のやり取りなど成立しない。させようとも思えない。一度試しただけで懲りた。増税には目くじらを立てるくせして、日本国の税制制度の不備について議論するのは嫌だと―――何故かひどく婉曲に―――言う。意味不明だ。数学的でない帰納法にしても穴がありすぎる。
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いや。同じでないことなどあるか? そう思わないことも無い。招集がかかる時間は、いつだってこのような、夜宵開始の間際。チェスの駒のように、テーブルと言う盤面へ向け、体裁を整えた男女。そうなれば、ただの備品と化す他の客、そして従業員。アルコールが入らずとも話題に事欠かないで済むインテリアを設えた内装は、タイとボタンを緩めるのに気後れせずともよい程度にラフ・アンド・カジュアルで、それが室温ゆえでなく異性へのアピールだと知れたところで、蛮行と見なされることは無い……なんらかの前科がなくば。どうだ? 同じようでないことがあるか?
麻祈が通達時間より早く指定席に着いたのも同じ、陣内と数人の女性が時間通りに来店したのも同じ、わずかながら遅刻してくる奴が出たのも同じ。こうしてビールが運ばれてくるのも、周囲を見ながらビールグラスを掲げる仕草を同調させるのも同じ―――
「じゃーとりあえず。かんぱー、にゅ!」
この陣内の言い回しとて同じなら、これからどっとやってくる太鼓持ちも付和雷同すると決まっている。試しに耳を欹(そばだ)ててみるが、
「やだーなにソレ!」
「飲む前からカンベンしてくださいよ! 吹いちゃって口つけらんないじゃないですかぁ!」
やはり、異口同音にて以下同順。
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