. どうして自分が医者になったのか。その動機が見当たらないと言えば、人は驚くのだろうが。
己のパラメータを分析した結果、医大の単位を修め、いずれ医師免許に手を届かせるだけのステイタスがそこそこ整っていると判断した際、それを選択しない理由が思い浮かばなかった。それだけだ。
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それを疑問に思わないでもない。少なくとも麻祈には、神がかったメスで死線から救出してもらったミラクルも、幼くして不治の病にかかった車椅子の薄倖美少女との淡い初恋も無い。そういった映像作品を視聴したことがないとは言い切れないにせよ、そのほとんどは日本に定住して以降のはずだ――― 十八歳を越えてなお、職業選択を決定づける主因となるような影響力を有した作品を忘却するほどのショックを記憶野に受けたとなると、それこそ大掛かりな医療機関で施療されていなければおかしかろう。こうして生きている以上は。ならば堂々巡りだ。
(少なくとも、これに憧れてのことではない。とは思う)
これとはつまり、四対四の合同コンパにてネタにするため、ということだが……
立て板に水とばかり喋り続ける隣席の陣内を横目にしては、その確信も磨耗を余儀なくさせられていく。せめてもの抵抗に、麻祈は目を閉じた。
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