「で、俺はさ。じーっとひとつのトコに収まってるのはダメなんだよね。器じゃないっしょ? だから二年ごとに職を変えて修行して……」
その口上が前回となんら変わり映えないことに気づいて、聴覚からも陣内を除外する。彼は―――麻祈と違って――― 一滴も飲んできていないだろうが、そのモダンカフェにいるどの客よりも酔っているように見えた。乾杯のビールを注文して数分。彼は間断なく陽気に笑いながら身振り手振りで会話を膨らませ、合コン相手の素肌のみならず女性従業員の脚線美までアトランダムに眼差しでつまみ食いして……つまりは、欲望に素直だった。下品だと断じるほど露骨でも無いが。
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むしろ彼の方からしてみると、露骨に場を盛り上げようとしない麻祈の方こそ男気という名の品性を欠いていると断じているのは明らかだった。陣内の目角がこちらに向く都度、苛立ちを含んで斜度を強めていく……まあそのたび女性らの回復ポイントへ視線を舞い戻しては角度を虚数域まで落としていたから、その理由付けになっている我が身を考えると、不干渉を決め込んでいることに負い目を感じてやるいわれもない。もともと陣内は、麻祈の友人である佐藤の交友圏に属する男であり、自分とは直接的な接点も交流も存在せず、さほど親しい間柄でも無かった―――かと言って、犬猿の仲とも違う。ややこしい間柄と言うのが最適か。
(だからこそこんなとこで、客寄せパンダしてんだけど)
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