「あふぅ。救急当番じゃないから、今宵の当直医はまだ平和―――
て思ってたら呼び出しとは。とほ。
って、これ。マイ携帯じゃん。鳴ってんの。誰から? 電話番号は……
……華蘭?
もしもし」
「もしもしー? そちら、佐藤葦呼さんでいいっすか?」
「あんたが誰かによって返事は変わるかな。
華蘭を人質に取った犯罪者が相手ならマッチョな警備員だし。性転換した華蘭が相手なら葦呼だし。
だから。あんた誰?」
「陣内って言うモンですー。陣内・千得人。そんな怪しがんないでくださいよー。
てか何でケーサツじゃなくて警備員なんすか? 犯罪者だったら。呼ぶの」
.
「犯罪者がモノホンなら、もれなく警察がついてくるでしょ。
それに警察より確実に強そうだし。二の腕にイレズミあるし。ぜってぇLOVE・LAってハートに弓矢ささったイレズミあるし。
あと、使えない鉄砲より使える棍棒」
「たぁしかにー。すげー。医者ってすげーアタマ回路」
「……医者って知ってて電話かけてくるってことは、華蘭に医者が要るような何かがあったとか?」
「そ。高ラン、チョーシこいて飲みすぎて、今ここでブッ倒れてんです。
クルマ回そっかー救急車呼ぼっかーつって訊いたら、友達が医者してるから、まずは頼りにってケータイ出されて。
だからかけてみましたってわけ」
「んもー。あいっかわらず、弱いのに好きなんだから」
「どーしましょ。とりあえず、吐くだけ吐かせて、その分水飲ませて寝かしてあるんすけど。
あ。ちゃんと横向きで。さっき吐いたの水だけだったから、ノド詰まる心配ないとは思うんすけど。一応。
もどしたやつ、ほんとーにもう透き透きの水で、胆汁っぽいのも無かったっす。
それと、ケータイくれたって言ったとおり、意識ありますよ。記憶は残らないだろうっすけどね」
「……慣れてんのですね。陣内さん」
「うん。慣れてますよ。飲み会ラブなんで。こーいったのも飲み会のイロっすから」
「じゃあ何で電話? そんだけ慣れてたら、もう華蘭はそのまま寝かせといたらオッケイって分かりきってるはずでしょ?」
「高ランには、今はこれが一番効く薬っしょー」
「およ?」
「信頼できる親友の医者が助けてくれるなんて、ちょー安心材料。でしょ?」
「……分かりました。ありがとうございます。
華蘭には、『あんたには陣内さんがついてるから大丈夫』って伝えてください。
万が一、華蘭の状態に手に負えない気配を感じたら、遠慮なく病院へどうぞ」
「らじゃーっす。んじゃ、またねん♪」
「プツッ―――つー・つー・―――
って、……また?」
電話切れ音を擬音化してまで嫌な予感を撹乱しようと試みた葦呼であったが、後日、そりゃ容赦なく『また』はやってくるのであった(後々日にはアサキングにまで)。
[0回]
PR