面目を潰された陣内が、見るだに気色ばむ。
「そっちこそ、そーやってイチイチ台無しにしてくれんのってマナー違反なんすけど。マジ空気読めよ。あっちじゃどうだか知りませんけど、アンタこっちに来て何年なわけ?」
「―――……そうですね」
一拍。
拘泥するでもなく、麻祈はあっさりとビールグラスを退かした。言い添える。
「気をつけます。ありがとう」
「はッ」
短く嘲る陣内だが、相手がそれに反抗しなかったため、そのまま忌み続けることは困難だったようだ。あっさりと顔の造作を聴衆向けの陽気に作り変えて、掴み取った灰皿を示してみせる。
.
「吸わして戴いてイイっすかー?」
「いーともー!」
司会者に迎合するのに慣れていた烏合の衆は、陣内の号令に雁首を揃えた。それは本当にただ合コンの方程式に基づいての行いであって、誰も彼も、心根は悪人ではない―――麻祈も、異分子と疎まれ迫害を受けるような降格処分は下されなかった。陣内は合コンを再構築する能弁の要素として彼を必須としていたし、それによって当たり障りなく盛り上がっていくことが出来るのなら、その場にいる全員にしても損はなかったのだから。
だからこそ紫乃は、己こそ異分子だと感じていた。周囲に関係なく、ただただ彼への瞠目がいつまでも続いていた。
(ズバッと叱って、さらっと謝れてる男の人、初めて見た……)
こうして。今は。麻祈を目で追う、時が始まる。
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